この三角図は、業務用食器洗浄機用の洗剤におけるTrilon® Mキレート剤(左)とSTPP(トリポリリン酸ナトリウム、右)の卵汚れを落とす力のモデルを比較したものです。Trilon® MがSTPPと同等の洗浄力を持っていることがわかります。
BASF - 食器洗浄力アップと環境保護の両立をめざして
リン酸塩の代替品発見にJMP®が寄与
チャレンジ | 食器洗剤のリン酸塩配合廃止を受け、BASF 社の化学者チームはリン酸塩と同等の洗浄力を持つ化学合成物質の研究開発に着手しました。 |
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解決策 | SASの統計的発見ソフトウェア、JMP® を使用して、チームはさまざまな化合物の洗浄力を評価し、リン酸塩の代替物質を模索しました。JMP® は大幅な時間短縮にも貢献しました。 |
結果 | BASF 社のプロジェクトチームは、JMP® を活用して、リン酸塩に代わる洗浄剤を発見しました。現在、この洗浄剤は世界中の洗剤メーカーで利用されています。 |
2010年7月、食器洗浄機から取り出した皿やコップ、調理器具が思ったほどきれいに洗えていないという話題が全米に広がりました。その原因は、無リン洗剤(リン酸塩を含まない洗剤)です。
リン酸塩は、食べかすや油汚れの洗浄力に優れていますが、湖や小川に流出すると藻の異常発生の原因になり、太陽光を遮って水中の酸素濃度を低下させることで、生態系に悪影響を与えます。
そのため、2010年夏、米国の16州で、リン酸塩の含有率が0.5パーセントを超える家庭用食器洗剤の販売が禁止されました。これを受けて、洗剤メーカー各社は全製品でリン酸塩使用を廃止しました。
世界最大手の化学メーカー、BASF社では、リン酸塩と同等の洗浄力を持つ代替物質の発見を余儀なくされました。その任務は、BASF社のケア・ケ ミカルズ事業部のグローバル・テクニカル・キーアカウント・マネージャーであるJim Dailey氏を筆頭とする化学者たちに託されました。
Dailey氏は次のように語ります。「化学者は、常に相乗効果を捜しています。このケースでは、相乗効果により望ましい性質、すなわちリン酸塩と 同等のBASF - 食器洗浄力アップと環境保護の両立をめざして洗浄力を持つ化学合成物質を見つけようとしていました。それが私たちの目標だったのです。」
最終的に、BASF社の製品であるトリロンM(Trilon® M)と他の助剤用組成物の混合物が、リン酸塩の代替物質の最有力候補であることが突き止められました。
トリロンMは、この種の製品では初めて米国環境保護庁のDfE(Design for the Environment)認定を受けています。一方、助剤はアルカリ緩衝作用を持つ無機化合物で、洗浄力を高めるものです。この混合物の発見において、 SASの統計的発見ソフトウェアJMP®が寄与したのです。
JMPは、メモリ内やデスクトップ上で統計量やグラフを動的に関連付け、統計的発見を促すツールです。リン酸塩代替物の研究開発に着手したDailey氏らは、JMPをデータ分析ツールとして採用しました。
JMPはデータの効率的な検討に役立っただけでなく、時間の短縮にも大きく貢献しました。Dailey氏のチームはJMPの実験計画(DOE)ツー ルを活用し、さまざまな混合物を対象とした多因子実験を行いましたが、JMPによって計画の所要時間が75%強も短縮できました。
「私は化学者であって、統計学者ではありません。これほどまで迅速かつ簡単に研究を進められたのはJMPのおかげだと実感しています。」とDailey氏は語っています。
また同氏は、「JMPを使った実験計画では、最小限の実験回数で空間を充填できました。データをモデル化すれば、実際に実験していない部分の性能も予測でき、その点に立ち返って確かめることができました。」とも述べています。
キッチンでの検証
BASF社のケア・ケミカルズ事業部は、パーソナルケア、ホームケア、業務用洗浄剤に用いられ、また技術的に応用される幅広い原料(界面活性剤、ポ リマー、乳化剤、キレート剤、紫外線吸収剤など)を提供しています。BASF社の顧客には、一般および業務用クリーニング業界における世界大手の企業が名 を連ねています。
Dailey氏は研究開発に従事していたため、2008年からリン酸塩問題に取り組むことになりました。すでにリン酸塩廃止の動きが進んでいる中、業務用洗剤に使用できるリン酸塩の代替製剤の評価プロジェクトを立ち上げたのです。
まず、JMPを使用して、業務用食器用洗剤、業務用衣料用洗剤、硬質表面用洗浄剤の成分間の相互作用を検証することから始めました。1つの実験として、調理した卵、オートミール、グレービーソースを盛った皿を、業務用食器洗浄機で洗いました。
「製剤間の差異を観察できるように実験方法を考えました。3水準の配合計画を作成し、JMPを使って実験空間を効率的にモデル化できたのです。この 例では、キレート剤、ポリマー、助剤の組み合わせを検討しました。」とDailey氏は語ります。洗浄剤に配合されるキレート剤は、洗浄力の低下を招く水 中の金属を封鎖します。
プロジェクトチームでは、7つの成分の混合を扱う配合計画を選び、各製剤の効果を検証しました。その結果、ある配合において、リン酸塩を配合した製品と同等の洗浄力が観察されました。
「JMPがあったからこその成果です。」とDailey氏は述べています。
要望を満たす相乗効果をもたらす配合を見極めたプロジェクトチームは、コストを最低限に抑えながら最大限の効果を引き出せるよう、さらにJMPで検討を続 けました。「JMPのプロファイルに満足度関数を適用することで、両応答の満足度を簡単に最大化できました。最も低コストで卵の汚れを落とす方法を見つけ ることができたのです。」
BASF社の顧客である企業は、トリロンMキレート剤の洗浄効果を高く評価し、自社の業務用クリーニング製品に配合しています。
いろいろな場面で貢献
Dailey 氏にとって、JMP の多因子実験の計画、分析に関する機能は、実験時間の短縮だけでなく、研究の成果を明確にする役割を担いました。
「実験において、変数を1 つずつ検討する方法では、明確な結論を導き出すことが困難でした。しかし、JMP の「カスタム計画」プラットフォームで計画し、作成したモデルであれば、性能の優れたポイントを視覚的に把握でき、常に自信を持って結論を導き出すことが できたのです。」
Dailey 氏はJMP のグラフビルダーを愛用しています。グラフビルダーでは、選択した変数をX 軸やY 軸にドラッグ&ドロップすることで対話的にグラフを作成し、分析を行えます。
「本当に多くの場面でとても役立っています。あっという間にデータを把握できるのですから。」
特に大規模なテーブルを扱う際には、データのフィルタリング機能も便利な機能です。特定の行をリアルタイムで分析から除外でき、大幅な時間短縮に貢献します。
また、同氏は、JMP の平均の比較機能も高く評価しています。「J MP は、平均を信頼区間とともに、適切に比較できる非常に優れたツールです。」と語り、さらに次のようにも述べています。
「平均の比較を正しく行わない、またはまったく比較しないケースも多数あるようですが、私は、変動を明らかにし、平均の比較を行って製品の優劣を確認することが大事だと、チームのメンバーに言っています。」
最後に、「この点は非常に重要で、JMPが本領を発揮してくれる部分です。」とDailey 氏は結びました。
より有意義な結果をより早く手に入れることが企業にとって有益なのはもちろんのこと、今回の例では、環境保全や日々の食器洗浄の質にも大きく貢献しました。
私は化学者であって、統計学者ではありません。これほどまで迅速かつ簡単に研究を進められたのはJMPのおかげだと実感しています
Jim Dailey氏
BASF社、グローバルテクニカルキーアカウントマネージャー
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