エンジニアにとって、データの「見せ方」を選べるJMPのグラフビルダー機能は魅力的。データを等高線グラフに変えるなど活用してもらっています。経営層にとっても、 解析結果から使える技術を見渡し、適正な開発戦略を選択できることはメリットになるはずです
山本 拓氏 タイヤ材料先行開発部 エンジニア
チャレンジ | 統計を研究開発手法にどのように生かすか |
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解決策 | 研究開発の初期段階で、多数の実験に大規模な投資と時間が必要という課題の解決にもJMPが有用 |
結果 | タイヤ製造に使用する特定用途向け薬品群のブレンドに、複雑な組み合わせを仮想的に試験できるようになった |
ブリヂストングループ(以下、ブリヂストン)は、世界的なタイヤメーカーであり、ウレタン関連製品やゴルフ用品、自転車なども扱う企業だ。山本 拓氏は、同社のタイヤ材料先行開発部に所属。入社以来、タイヤの寿命や強度、安全性、燃費などの主要な性能を決定づけるタイヤ用ゴム材料や原材料の開発に従事してきた。「完成品のタイヤを料理に例えると、私の仕事はそのレシピを決めること」と語る山本氏は、同社開発部門のJMP展開に主導的な役割を果たすことになる。
山本氏は2014年、米国へ赴任した。主なミッションは、米国の研究拠点から、「統計を開発にどう生かすか」を学んでくることだった。
「ブリヂストン アメリカスではDOE(実験計画法)にJMPを利用していました。それまでJMPに触れた経験は全くなかったため、最初はJMPを操作することすら『チャレンジ』でした」と山本氏は振り返る。現地での業務を通して、少しずつJMPを学んだ。その中で、研究開発における「効率性」のとらえ方が、日本の感覚と大きく異なることに気がついた。
「日本で行っていた開発は、最短ルートでゴールにたどり着くことを目指すため、ベストシナリオを洗練させて積み上げる過程で不要なものを排除します。一方、ブリヂストン アメリカスでは最初に『何ができるか』という選択肢を無数に挙げます。その後、ゴールに至る工数と成功確率の最適解を選ぼうとします」(山本氏)
ブリヂストン アメリカスの開発手法では、最初の段階に工数を要する。他方、「このアイデアや材料は使えない」と判断すれば、すぐに他の選択肢を検討。最終的に工数を最小限に抑えられる。使える技術や材料の限界を定量データとして示せるJMPが、そのプロセスを支えていたのだ。
JMPはコミュニケーションツールとしても有用だった。山本氏は、「原材料を扱うサプライヤなど、統計に馴染みのない相手と交渉する際に、JMPでデータを見てもらっていました。インタラクティブHTML機能を使って動的にデータに触れてもらい、『なぜその結論に至ったか』を共有できますから」と話している 。
2016年、帰国した山本氏は、さっそく日本でもJMPの導入を提案。実際にシンプルなDOEを組んで、チームメンバーに見てもらうことにした。工程の最適化を図るRSM(応答曲面法)を使えば、現有技術の限界点を定量化して示すことができる。「上司に理解があり、『JMPを使えば、統計解析の専門家でなくてもシンプルな操作で定量的な解析結果を得られる』というメリットを評価してくれました」(山本氏)
山本氏にとって、JMP導入のメリットは、赴任先で経験した高効率な研究開発手法の普及だけではなかった。「開発の初期段階で、多数の実験に大規模な投資と時間が必要」という課題の解決にも、JMPが有用であると考えたのだ。たとえば、過去データの解析だけでも、従来見いだせなかった知見を発見できる。過去データに対して実験計画(拡張計画機能)を適用すれば、より効率的に技術のレベルアップを図ることができる。これらは、かつての研究開発手法にはないメリットだ。
実際に開発プロジェクトが始まれば、試行錯誤を繰り返す。開発効率を向上させるために、開発のターニングポイントでJMPを使って定量的な解析を行い、開発方針を軌道修正する。これは、品質工学やタグチメソッドを一歩進められるアプローチだ。
エンジニアにとって、データの「見せ方」を選べるJMPのグラフビルダー機能は魅力的。データを等高線グラフに変えるなど活用してもらっています。経営層にとっても、 解析結果から使える技術を見渡し、適正な開発戦略を選択できることはメリットになるはずです
山本 拓氏 タイヤ材料先行開発部 エンジニア
2016年8月、山本氏のJMPライセンスが決済された。山本氏は、1人でJMP を使うあらゆる業務をこなしながら、使い方をチームメンバーに伝えた。 JMPのメリットが認められた2017年、ライセンスを追加。開発部門の32人のメンバーがJMPを使い始めた。今後もユーザー数を増やす予定だ。
「JMPは、基礎的な研修と書籍があれば使えるようになります。『JMPがあれば 、いまあるデータで何ができるか』についてメンバーと話をすることで、やる気を出してもらっています」(山本氏)
現在、JMPを使って行っている業務は、主に「DOE(開発工数の効率化)」、 「 重回帰(過去データを活用した開発)」、「主成分分析(技術的な背反の数値化)」、「データテーブルの結合や処理(Excel関数の上位互換)」の4つだ。
顕著な成果の一例に、タイヤ表面に使うゴムの配合がある。タイヤ製造に使用する特定用途向け薬品群のブレンドにJMPを活用した結果、複雑な組み合わせを仮想的に試験できるようになったのだ。
「人手による実験で薬品群を試すのは現実的に3種類が限界でした。 JMPによって、磨耗具合や燃費、コスト効率などを多角的に解析し、優れた性能が出る組み合わせとその最適な比率をつかむことができました」。(山本氏)
山本氏は今後、赴任先で得た開発ノウハウを社内に普及させるというミッションにJMPをさらに役立てていきたいと考えている。
「エンジニアにとって、データの『見せ方』を選べるJMPのグラフビルダー機能は魅力的。データを等高線グラフに変えるなど活用してもらっています。経営層にとっても、 解析結果から使える技術を見渡し、適正な開発戦略を選択できることはメリットになるはずです」(山本氏)
山本氏は、開発に必要な解析ツール選定の鍵として、グラフツールなどの視覚性に加えてトータルなコスト効率が重要だと指摘する。
「フリーの統計解析ツールでスクリプトを書こうとすると、かなりの時間がかかります。JMPはボタン1つで解析できるため、開発工数の削減というメリットも得られています」(山本氏)
統計的な考え方に基づく開発は、IoTを通じた生産過程と開発過程の連携など、組織全体が有機的につながる開発プロセスを構築できそうだ。
「ブリヂストンは、実験データを大型のデータベースに蓄積しています。今後は、そうしたデータをJMPで解析し、開発に活用する段階に移行するでしょう。現在、社内でのIoTの活用領域は生産部門が主ですが、開発を含めたより広い範囲の業務を連携させ、全社的なデータ活用を実現させたいと考えています」(山本氏)