ユーザー事例
ハイスループットサイエンスの現場を支える統計ツール
Fujifilm Diosynth Biotechnologies(FDB)の研究者は、開発段階の実験最適化を進め、プロセスに関する知識の構築を可能に
Fujifilm Diosynth Biotechnologies
課題 | バイオ医薬品の製造では設計ミスが致命的なコスト増につながる。そのため、研究者は製造プロセスの開発を最適化する効率的なアプローチを必要としていた。 |
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ソリューション | JMP® Proは、さまざまなビジネス目標達成に必要なデータサイエンスのノウハウを研究者が確立する際に役立った。特にJMP Proの「関数データエクスプローラ」による関数データの次元削減や探索的データ分析、JMPの「実験計画」やデータの可視化によって製造プロセスに関する知識が短時間で得られ、費用対効果が高いJMPが広く活用されている。 |
結果 | 社内でJMPの利用が広がることで、バイオ医薬品の開発と製造プロセスの信頼性や再現性が高まり、また、初期段階の開発の能率化によって、開発と製造の期間短縮が実現された。 |
【事例概要】
- バイオ医薬品の開発・製造受託サービスを提供するFujifilm Diosynth Biotechnologiesにおいて、短時間で大量の候補やサンプルを調査、処理するハイスループット技術に、統計ソフト「JMP」を活用した事例。
- JMPの「実験計画」により、実証済みのモデルを用い、様々な条件を素早く小規模にテスト。特性解析と検証を、より早く、より少ないリスクで行うことができ、開発サイクルを短縮することが可能に。
- また、この「実験計画」プラットフォームには、重要な因子とノイズに過ぎない因子を区別できることや、潜在的な因子やランダム化を気にすることなく実験を行うことができるという大きなメリットがあった。
- JMP Proの「関数データエクスプローラ」は、センサーデータ、トランザクションデータ、化学スペクトルなど、多くのデータが関数として表示されるバイオ医薬品開発において特に業務を強力にサポートした。
- さらに、「関数データエクスプローラ」によって、関数データをより簡単に分析できる形に変換可。データの前処理、代理モデルの作成、次元の削減等を実施する際に便利なツールとして活用された。
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競争が熾烈なバイオ医薬品・バイオテクノロジー市場では、イノベーション・サイクルの迅速さや、高い品質基準の維持が極めて重要です。たとえば、製造の現場では、手戻りのない正確なロットの製品を一貫して製造することが求められているため、設計上の決定の良し悪しがコストに大きな影響を与えます。
さらに、顧客や医師、病院等の医療を提供する側では、高品質で費用対効果が高い製品を期待するようになってきています。
このような状況を背景として、バイオ医薬品の開発や製造受託サービスを提供するFujifilm Diosynth Biotechnologies(以下、FDB)では、最先端の統計・データサイエンスツールを社内の研究者が利用できるようにすることで、その意思決定を支援し、全体的な効率化と再現性の高い科学の実現に取り組んでいます。
そして、このような取り組みの背景には、社内のラボにおいて統計を業務に活かすことの有用性が認識され、そのニーズが高まっていたという現状がありました。
本事例でご紹介するFDBは、英国、米国、デンマークに拠点を置き、バイオ医薬品の製造受託、遺伝子治療、ワクチンのプロセス開発およびGMP(Good Manufacturing Practice, 医薬品の製造管理及び品質管理の基準)に従った製造サービスを展開するリーディングプロバイダーです。
同社は世界中の顧客と緊密なパートナーシップを築き、細胞培養、組換えタンパク質、ワクチン、微生物による発酵、遺伝子治療等に関する広範な専門性を提供しており、また、バイオ薬品のコンセプトから商用リリース、継続的供給に至るまで製造プロセスのライフサイクル全体(プロセス特性解析、プロセス検証を含む)を開発しています。
実験のありかたを変えるハイスループット技術の革新
FDBは、ハイスループット実験のパイオニアです。自動化(時間短縮、プロセス理解の向上、統合データワークフローの実現を目的)や装置のアップグレードを実施することで、スタッフの作業時間を効率化しています。
これらの取り組みは、FDBのスループットを向上させ、そのラボ・システムを業界標準以上に高めるのに大きな役割を果たしてきました。そのため、このようなFDBのやり方は、業界の他の企業や組織でも採用されつつあります。
「ハイスループット技術は、バイオ医薬品製造のタイムラインを改善するのに大きな役割を果たしています。たとえば、細胞培養と発酵に使用するambr®という技術は、小スケールから大スケールでのプロセス・パフォーマンスや製品品質についての信頼できる評価や特性解析の実施を目的として、適切なスケールダウンモデルとして使用することも含め、大いに活用されています」とFDBのスタッフサイエンティストのSomaieh Mohammadi氏は言います。
このMohammadi氏は、FDBのデータサイエンス・グループの一員として、統計学と計算工学の専門知識を有しており、同僚のスタッフサイエンティストであるGwen Ninon氏とともに、社内でのデータサイエンススキルの習熟向上を支援しています。
具体的には、正式なトレーニング、その場限りの個別コンサルティング、長期的な戦略的開発ワークフローの展開等を通じて、Mohammadi氏やNinon氏、そして、同チームのデータサイエンス担当者たちは、同僚がミニorマイクロサイズのambr®バイオリアクターや、わずかな時間で大量のデータを生成できる自動液体処理・分析システムなどのハイスループット技術をよりよく活用できるようになることを手助けしています。
すなわち、プロセスにおけるイノベーションを推進するうえで、豊富な知識に基づく意思決定を促し、ラボでのパフォーマンス向上につながる、新しい統計やデータサイエンスのアプローチを構想し、実行することが彼らの役割なのです。
ところで、Mohammadi氏とNinon氏が大きな成果を上げた分野の1つに、数値流体力学(CFD)があります。FDBでは近年、性能の予測と最適化を目的として設計されたCFD技術が普及していますが、このプロセスにおける入力パラメータの選択肢が多様であることが、膨大な因子を考慮するために多くのシミュレーションを行う必要があると感じていた研究者にとってボトルネックになっていました。このため、Mohammadi氏とNinon氏の助けが必要となったのです。
「私たちのプロセスは非常に複雑なため、流量や細胞密度などの従来型のパラメータに加えて、流体やガスの流れなどの物理的な力の影響を評価するための、より優れたツールが必要でした」とMohammadi氏。入力変数を制限し、実験計画法によって実験を最適化できるツールを探していたMohammadi氏とNinon氏は、JMP® Proに注目しました。
JMPの「実験計画」で実験の最適化と開発期間の短縮を実現
JMP、そして、より高度の分析が可能なJMP Proの主な機能の1つに「実験計画」があります。これは、カスタム計画や決定的スクリーニング計画などの高度な実験計画法(DOE)を実施できるものです。
実験計画法は、今日、世界中の製薬およびバイオ医薬品開発のラボで、ますます重要な役割を果たしています。
というのも、統計的手法によって、研究者は所定の試験で実行しなければならない実験回数を減らし、開発サイクルを短縮することができるからです。
実験計画法を実施できる統計ソフトはJMP Proだけではありませんが、CFDに適用可能な実験計画法に基づくワークフローを構築するうえで、JMP Proは不可欠なツールだったとNinon氏は説明します。
「実験計画法に基づくCFDモデリングによって、最終的にプロセスの理解と製品の再現性につながる、より良い設計上の決定を下すことができました」とMohammadi氏は振り返ります。
さらにNinon氏はこのやり方の主な利点は、研究者が事前に実験を計画し、重要な因子とノイズに過ぎない因子を区別できることだと指摘します。
「統計的観点からすると、潜在的な因子やランダム化を気にすることなく実験を行うことができるメリットがあります。また、実証済みのモデルで、小規模に様々な条件を素早くテストできるので、特性解析と検証をより早く、より少ないリスクで行うことが可能です」とNinon氏。
分析データの準備に威力を発揮する「関数データエクスプローラ」
JMP Pro限定の機能として「関数データエクスプローラ(FDE)」があります。これは分析のためのデータ準備に役立つデータ変換ツールで、実験計画で得られたデータにも使えます。
「関数データエクスプローラ」は、特にセンサーデータ、トランザクションデータ、化学スペクトルなど、多くのデータが関数として表現できるバイオ医薬品開発において便利です。
Mohammadi、Ninon両氏が指摘するように、関数データを扱う難しさは、研究者にとって本当にやりたいことが、関数データを直接分析することではなく、観測されたデータを生成する基礎となる関数を扱うことにあるという点にあります。
その点、「関数データエクスプローラ」は、関数データをより簡単に分析できる形に変換します。そのため、探索的分析のためにデータを前処理したり、代理モデルを作成したり、次元を削減したりする際に極めて有用なツールとなります。また、「関数データエクスプローラ」での出力は、マウスを数クリックするだけで、簡単に他のJMPのプラットフォームで分析できます。
「機械学習関連プラットフォームの使いやすさが非常に優れています。また、ダッシュボードを(インタラクティブ)HTMLで保存して非ユーザーと共有できる点も素晴らしいです」とNinon氏。
実際、JMPに搭載されている分析の共有機能は業務で大きな威力を発揮します。開発プロジェクトで共同作業を行う研究者にとっても、Mohammadi氏やNinon氏のようなその場限りのサポートを提供するアドバイザー的な立場で働く研究者にとっても非常に役立つ機能です。
今日、FDBの研究者たちは、数多くの選択肢の中からツールを選択できるようになりました。しかし、大学院でMinitabを学び、オープンソース・ソフトウェアも広く利用してきたNinon氏は、JMPが第1の選択肢になる分析が幾つもあると述べます。
FDEのような専門性の高いプラットフォームがあるという点だけでなく、可視化やデータ補完のクオリティーの高さもJMPを選ぶ大きな理由となっています。
「Rで(これらすべてを)実行できたかもしれませんが、プロンプトを書かなければならないので、非常に手間と時間がかかったことでしょう」とNinon氏は付け加えます。
「バックグランドでは膨大な数の複雑な計算やコーディングが行われているはずですが、JMPはユーザーフレンドリーに設計されているため、実に簡単に使えます」とMohammadi氏。
業務の効率性を飛躍的に高めるJMP。研究者を強力にサポートするこの統計ツールを社内で広めることが、開発サイクルの迅速化につながり、ひいては収益性と科学的イノベーションの両方に貢献することになると実感されているようでした。