ユーザー事例
先進的なテクノロジーでエネルギーニュートラルな未来へ
世界初の有機太陽光発電フィルムの量産メーカーであるHeliatek社は、自動化されたダッシュボードを使用して、パイロット生産環境における統計的工程管理を確立
© Innogy
Heliatek社
課題 | Heliatek社は、その先駆的な太陽光発電フィルムを量産するため、最先端のカスタム設計された製造機器による独自のロール・ツー・ロール製造環境を開発。 しかし、一般的なソフトウェアでは対応できないため、同社のエンジニアは逸脱や潜在的な欠陥を検出するためのライブ工程監視システムをカスタマイズする必要があった。 |
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ソリューション | 多目的に使える統計ソフトウェアを探していた同社。素早いデータ探索を可能にするユーザーフレンドリーな可視化ツールと、高度な分析のための洗練された統計プラットフォームの両方が魅力のJMPを選択。 製造規模の拡大に伴い、工程知識を深めるのに必要なデータ探索にJMPのグラフビルダーが不可欠と同社は考えている。 |
結果 | JMPで開発した独自のダッシュボードで、自動化されたアラートシステムを使用すれば、プロセスが仕様を超えた場合に製造工程オペレーターによる迅速な対応が可能に。 また、プロセスインテグレーションの専門家によると、パイロット生産においてアラームダッシュボードだけで5%もの歩留まり向上を実現。 |
気候変動は、世界が直面している最も差し迫った課題と言えます。国連によるアクションプランでも、世界の化石燃料への依存を解消し、持続可能なエネルギーソリューションへの転換を図ることが謳われています。そして、現在の憂慮すべき水準にある大気中の二酸化炭素レベルを軽減するには、世界中の政府、組織、民間人が、持続可能なエネルギーを使用するように行動を変化させる必要があるというのが、世界における科学的コンセンサスです。幸いなことに、新たなイノベーションによって、そうした行動が可能になってきています。
ドイツのHeliatek社は、100%グリーンな方法で電力を生み出すという目標を実現するため、これまで困難だったさまざまな建築構造にあわせた(たとえば垂直に)太陽電池を設置するための、先駆的な有機太陽光発電フィルムを開発しました。ドレスデン工科大学とウルム大学のスピンオフ企業として2006年に設立されたHeliatek社は、2011年に名誉あるドイツ未来賞を受賞し、2015年には世界経済フォーラムからテクノロジー・パイオニアとして認定されました。
同社の革新的技術によって生み出された「HeliaSol」は、曲面や不定形面を覆うことができる、超軽量、超柔軟かつ無害な太陽光発電フィルムです。同社のプロセスインテグレーションエンジニアのTorsten Weber氏は、「従来の太陽光発電と『HeliaSol』が異なる点は、従来の製品では建物にかかる荷重のために売り込むことができなかった市場セグメントでも、『HeliaSol』ならカバーできることです」と説明します。また、「HeliaSol」の厚さは1mm以下であり、建築物の表面をフルに活用して太陽光発電を行うことができます。この革新的な設計によって、都市の建築環境においてエネルギーニュートラルを実現できるのです。
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パイロット生産から大規模生産へ
2017年にHeliatekに入社したWeber氏は、同社のパイロットプラントおよび量産工場の歩留まりに関して工程の最適化を担当するチームの一員です。2020年は同社として初めて市場参入できる規模の生産を実現できたマイルストーンとなる年でしたが、Weber氏は同社独自のロール・ツー・ロール生産環境における技術移転は、いくつかの固有な課題をもたらしたと言います。
「私たちの製品は本当に新しく、革新的です。それはつまり、私たちの機械もまた、ユニークで作りがいのあるものだということです。そしてまた、私たちが行うデータ入力とデータストリームは強力にカスタマイズされています」とWeber氏。標準的な機器であれば、従来の工程に関する知識や統計的プロセス制御(SPC)を期待して導入できますが、Weber氏らは、工場内のさまざまな工程や機械のパラメータによって生産をモニタリングし、ゼロから工程に関する知識を構築しています。
カスタムメイドの生産環境でSPCを確立するには、まず機器で行われているすべての測定の計量調査から始めるべきだとWeber氏は説明します。 製造工程における警告仕様限界に関する初期のアイデアは、ベースラインに基づくものと実験によるものを組み合わせて検証する必要がありました。また、データの出力は、良好なSPCを確保するために必要なデータを生成しつつ、ストレージを占有するだけの無意味なデータを廃棄するように調整されました。
効率的なデータ戦略とは、最適なデータ収集だけでなく、逸脱したデータをこまめに記録することだとWeber氏は言います。失敗から学ぶことは、プロセス改善の重要な部分であり、制御不能なイベントが発生するたびに、チームは工程の管理限界についてより多くの情報を得られます。しかし、仕様外の工程を実行すると製品化の遅れや廃棄コストの増加につながるため、逸脱した工程を迅速に発見して修正することが必要です。レスポンスタイムを短縮するためには、より優れたソリューションが必要でした。
そこでWeber氏は、JMPでカスタムアラームダッシュボードを作成しました。
カスタマイズされたアラームツールにより、工程が制御不能になった場合のオペレーターの迅速な対応が可能に
Weber氏は、従来のアラーム回路基板からヒントを得て、JMPスクリプト言語(JSL)を使ってHeliatek社の製造工程用のカスタムダッシュボードを構築しました。このダッシュボードは、工程の溶着速度が設定された時間枠内の水準を超えたときにオペレーターにすばやく警告するものです。「色とりどりのボタンこそありませんが、アラームダッシュボードと似ています。また、JMPで使える統計的手法を素早く適用できるという利点もあります」と同氏は説明します。
ダッシュボードは、見やすさを念頭に置いて作られています。視認性に優れたデザインにより、オペレーターはどのプロセスが制御不能になっているかを一目で理解できるようになっているとWeber氏は述べます。ダッシュボードには、複数のプロセスパラメータが同時に表示され、それぞれが信号機のように色分けされ、複数の工程の稼働状況を表示します。データは連続したループとして更新されるため、いつでも簡単に情報を確認でき、問題の診断や予測に役立ちます。
オペレーターは多忙なため、ダッシュボードを常に見ているわけではありません。このシステムでは、Eメールによる自動アラートを生成できるので大変便利です。制限を超えるとパラメータが赤に変わり、システムは自動的にオペレーター、シフト監督者、エンジニアなど、あらかじめ作成した宛先リストにメールを送信します。さらに、JSLに代わる「Mail()」関数は、内部のSMTPサーバーを介してメール転送を実行します。
JMPの簡単なスクリプトを使うことで、Weber氏はダッシュボードの設定をたやすく調整して、アラートシステムのルールや例外を作成できます。また、JMPのグラフィカルなユーザーインターフェイスとデータ可視化機能は、ダッシュボードを特徴づけるだけでなく、プロセス統合チームが規格外のイベントを調査し、そこから学ぶための鍵となります。さらに、カスタマイズされたHTMLスクリプトを使って、JMPユーザー以外の人ともグラフを共有することが可能です。これにより、読み込みの遅延を回避したり、自動再読み込みのアドインを設定できます。
「JMPはとても使いやすく、魅力的なソフトウェアです。実験計画(DOE)などの興味深い機能だけでなく、私が求めるすべての統計解析機能も備えていますJMPは統計解析ツールとしてはもちろん、自身でコーディングしてカスタマイズできるところが素晴らしいのです」
- Torsten Weber氏、プロセスインテグレーションエンジニア
パイロット生産で1~5%の歩留まり改善
Weber氏のアラームダッシュボードは、導入以来、制御不能な工程に対するオペレーターの応答時間を劇的に短縮しました。オペレーターが警報(アラーム)を受け取るのが早ければ早いほど、スタッフを集めて解決策を見極めることが可能になります。それが歩留まり改善や廃棄物の削減につながります。
「このアラームダッシュボードのおかげで、パイロット生産ではおそらく1〜5%ほど歩留まりが向上しました」と、Weber氏は述べています。「タスクにもよりますが、一連の実験と運用実績に基づけば、1~5%は大きな改善だと思います」と同氏。
この成功は、直感的な可視化によるところが大きいようです。「アラームダッシュボードを使えば、パラメータが制御不能になったことがすぐにわかります。また、複数のパラメータがあっても、アラームダッシュボードだけでなくグラフビルダーも利用できるため、可視化はとても簡単です」
「アラームダッシュボードと分析したい他のデータの両方にグラフビルダーを使用して、相関関係や分布を表示し、概要をすばやく把握できます」これはWeber氏が「クイック&ダーティなデータの可視化」と呼んでいるもので、データクランチングや探索的分析をすることで、工程やさまざまなパラメータとの相互作用について、より深く理解できます。
JMPは、データの可視化と高度な分析の両者を実現
インタラクティブでユーザーフレンドリーな可視化機能は、JMPを導入する際にまずWeber氏が検討した重要なポイントの1つでした。「(Heliatek社の)誰もが活用できる分析ソフトウェアが必要でした」と同氏は言います。
他にもグラフィック機能があるソフトウェアや、オープンソースのプログラミング言語でカスタムダッシュボードを作成できるソフトウェアはありましたが、JMPの良さはその両方を兼ね備えていることでした。実際の製造工程に関してWeber氏のチームが実験計画(DOE)を役立てられる段階ではまだありませんが、近いうちにこの機能が使えるようになるだろうと同氏は考えています。
「JMPはとても使いやすく、魅力的なソフトウェアです。実験計画(DOE)などの興味深い機能だけでなく、私が求めるすべての統計解析機能も備えています」と同氏は述べています。「JMPは統計解析ツールとしてはもちろん、自身でコーディングしてカスタマイズできるところが素晴らしいのです。JMPならデータを分析したり、スクリプトを使って独自のアプリケーションを構築できるのです。また、JSL(JMPスクリプト言語)を使えば、多くのことをすぐに学べます」と同氏は述べています。
ディープラーニングアプリケーションへの道を拓く
データの流れや製造システムの自動化が進むにつれ、ダッシュボードや継続的なデータの可視化が果たす役割はさらに大きくなるとWeber氏は考えています。Heliatek社では少なからぬ時間をかけ、データプロセスの一部または全部を自動化し、デジタル化されたシステムがアルゴリズムを使って学習し、制御不能なイベントアラートに対応することも可能になるでしょう。
「最適化に向けた努力は、ずっと続きます」とWeber氏。実際、それは正しい道筋です。Heliatek社のような先駆的企業が継続的にイノベーションを起こし続けることは、気候危機の解決に貢献することになります。有機太陽光発電フィルムの生産量が増えれば、より多くの建物が完全なエネルギーニュートラルを実現できます。
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