【事例概要】
●米国の代表的な乳製品ブランドであるHP Hoodにおいて、統計ソフト「JMP」の「実験計画」を活用し、コスト削減、研究スケジュールの大幅短縮化を実現。
●また、同社は「JMP」の「クエリビルダー」で社内のデータアクセスを改善。以前は最低1時間かかっていた作業を30秒で実施。研究員は、より付加価値の高い業務に集中的に時間を費やせるようになった。
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米国における代表的な乳製品ブランドのHP Hoodは、175年以上にわたって、牛乳、クリーム、エッグノッグ、カッテージチーズ、アイスクリーム、ヨーグルト、その他の乳製品を食料品店に卸してきました。
1846年にマサチューセッツ州で設立された同社は、品質と持続可能性への取り組みを継続するとともに、LightBlock Bottleのような革新的な技術を導入し、伝統で知られる業界の近代化に貢献しています。
また、同社は「Hood」ブランドの乳製品の中核事業に加え、オーツミルク (「Planet Oat」)、アーモンドミルク (「Almond Breeze」)、ラクトースフリー(無乳糖)ミルク (「Lactaid」) でも市場をリードしています。
「乳製品業界は、急ピッチの技術革新が起こる場所ではないかもしれませんが、市場は急速に変化しているため、従来の伝統的なブランドも近い将来進化を迫られることになるでしょう」とHP Hoodの食品研究員、Curtis Park氏は述べています。
「当社の開発スケジュールは年々短くなっています。これにより、テスト時間が短縮され、工場で問題が発生する可能性が高まっています」と同氏。
ノースカロライナ州立大学で食品科学の博士号を取得した後、HP Hoodに入社したPark氏は、統計的手法が食品科学の未来への鍵を握ると感じていましたが、それが現実化するまで数年かかりました。
「統計がどれほど業務に役立つかを理解していました。いや、少なくともそう信じていました。ですが、完全に確信していたわけではありません」と同氏。
Park氏が入社して目にしたHP Hoodの社風は、迅速さよりも確実な進歩を大切にするものでした。従来の単一因子実験は大体において効果的でしたが、開発サイクルは時間がかかり、改善は先を見越したものではなく事後対応的なものでした。
市場からの厳しい要求が高まりを見せるなか、Park氏は新しい方法でデータを使用することで、科学研究を加速させうることに気づきました。そこで、同社の研究開発部門の新しいシニア・ディレクターにJoe DeStephano氏が就任したのを良い機会として、Park氏は会社の科学研究を前進させ、統計がいかに有益であるかを探索することを決意しました。
その2年後、Park氏の努力の甲斐もあり、HP Hoodは統計的手法を積極的に取り入れる企業に変化を遂げました。
現在、主席研究員となったPark氏は、食品科学への強固な統計的アプローチの採用を提唱するうえで重要な役割を果たしています。たとえば、単一因子実験から多因子実験への移行は、市場で求められる開発速度と品質を維持するための解決策であると同氏は考えています。
高コストの失敗や実験にかかる時間を減らし、研究の再現性を高めるDoE
「HP Hoodの研究開発部門の研究員は、配合の研究において、成分と加工の両方に取り組んでいます。味、品質、保存期間、安定性、コストなど、すべてが最適な製品を生み出す処方の要素となるため、統計的手法なしに最終的なレシピに到達するには苦労と試行錯誤が必要となるかもしれません」とPark氏は説明します。「運任せでダーツを的に投げるようなものです」と同氏。
そのようなアプローチを改善するための第一歩として、Park氏は、HP Hoodが最近品質部門とオペレーション部門をサポートするために雇用した統計コンサルタント、Lynne Hare氏と協力して仕事を開始しました。その初期の会話で、Hare氏は、実験計画法(DOE) として知られる統計的アプローチがHP Hoodの研究開発プロセスを迅速に合理化できると強く主張していました。
「Hare氏は、どれほど実験計画法(DOE)がパワフルか私たちに話し始め、私は非常に興味を持ちました。なぜなら、それはまさに私が暗中模索しつつ探し続けていたものだったからです」とPark氏は振り返ります。
「 (実験計画法(DOE)を初めて見て)ピンとくるものがありました。これこそまさに私が求めていたもの、つまり、実験を行うためのより優れた、より体系的な方法であることに気づいたのです」と同氏。
Park氏は続けて、「社内は基本的にMicrosoft Excelに頼り切っていたため、実験計画法(DOE)の使い勝手が悪く、一度に一要因の実験にとどまっていました。私たちは(実験計画法(DOE)を)始めるには統計ソフトが必要だとわかっていました。そんな時、Hare氏は『研究開発には多因子実験向けの業界標準の統計ソフトであるJMP®が必要だ』と断言してくれたのです」と当時の状況を語りました。
HP Hoodの研究開発チームのすべての研究員に JMPのライセンスを付与してからわずか2年ほどで、チームは実験計画法(DOE)とほぼ無縁の状態から、その実施が標準的なベストプラクティスとなるまでに成長しました。
「JMPのライセンスに支払う費用は、1回の実験計画法(DOE)の実施で簡単に埋め合わせられます。その程度のコスト感です。コストを削減し、実験を成功させるだけで、それだけの金額を節約できるのです。もし(実験に)失敗すれば、2万~4万ドルが水の泡になります」とPark氏は述べています。
このようなコスト削減は、研究スケジュールが(実験計画法(DOE)のおかげで)大幅に短縮されたことにもよります。
「実験計画法(DOE)によって(実験時間が)大幅に短縮されました。そのおかげで、商業化する方式を見つけるのに必要な時間を捻出することができたのです」と同氏。
また、実験計画法(DOE)の活用で、製品知識を深めることもできるとPark氏は言います。実験が再現可能で、体系的に記録される結果、豊富な履歴データセットが作成されます。そこで、HP Hoodの研究員は、これを頼れる豊富な知識として将来の製品群の開発に役立てています。
有益な情報となる製品やプロセス、さらに、製品開発が可視化できることは、チームのクオリティを高め、また、オペレーションパートナーにも恩恵をもたらしており、Park氏は、製品開発の内容と理由にかかわるコミュニケーションが大幅に改善されたと述べています。
目に見える成果とトレーニングの充実で広がった実験計画法(DOE)への賛同
HP Hoodの研究員全員が、新しい戦略的方向が必要であることや、実際に実験計画法(DoE)が適切な解決策であることに、すぐさま納得したわけではありませんでした。そのため、Park氏は懐疑的な研究員に対して、統計が業務に非常に役立つことを示すために、Hare氏、DeStephano氏と協力して最初のケーススタディを作り始めました。
「社内における最大の課題の1つを取り上げ、JMPの『実験計画(DOE)』を使用して解決することにしました。過去に他の人が解決しようとしてうまくいかなかった課題にするのがベストだと考えたのです。そうすれば、彼らに『君たちのやり方では解決できなかったけれど、(実験計画法(DOE))を使えば解決できる』と示すことができます。こうして長年の課題を解決してみせたのです」とPark氏は語りました。
このケーススタディが部門内や経営陣に広まると、「誰もがこの解決策に直ちに賛同し、その後の躊躇は一切ありませんでした」とPark氏は振り返ります。
次のハードルは、実験計画法(DOE)がケーススタディと似た課題だけではなく、社内の研究員が担当する別の分野でも機能するのを証明することでした。この点で、新しい研究開発部門向け統計トレーニングプログラムの導入は、支持を確保するのに必要な最後のピースでした。
HP Hoodの研究開発部門向け統計トレーニングプログラムは、現在、新入社員向けの標準的なオンボーディング研修となっており、さらに学習を深めたい人には、JMPの無料オンライン統計コースである「Statistical Thinking for Industrial Problem Solving(STIPS)」が推奨されています。
「STIPSによって、新しいスキルを習得し、自分のペースでモジュールを完了できるようになる」とPark氏は説明します。
「JMPは私の『推し』です。研究開発の関係者は全員そのことを知っていますが」と同氏は笑顔で語りました。
JMPと実験計画法(DOE)に巡り会ったことについて、Park氏は「キャリアを変える経験となり、科学者としての自分を確立できたと強く感じています。今では、問題を解決するのが格段に容易になりました。それに、自分の専門分野の知識を実験計画法(DOE)に活用することで、私だけでなく、他の研究員も自信を持てる確かな答えを見つけられます」と述べています。
JMPの「クエリービルダー」で、データアクセスが1時間から30秒に
JMPの導入の初期段階でチームが取り組んだもう1つのプロジェクトは、仕様策定プロセスの改善でした。データアクセスがスムーズにできないことは、研究開発チームにとって長い間課題となっており、相互に通信しないデータベース間で品質データがサイロ化されていました。
評価指標を向上させるために、Park氏はHP HoodのIT部門や同社の工業統計家であるBill Henry氏と協力し、JMPの「クエリービルダー」プラットフォームを使用して、会社のQAデータベースをJMPに接続させました。
現在、研究員はさまざまなソースからのデータに簡単にアクセスし、クエリーを実行し、データの経時的な傾向や、仕様に対するプロセスのパフォーマンスを確認できるようになりました。また、このシステムは、Park氏がプロセス能力を測定し、仕様策定を補強するために使用したツールも備えています。
「『クエリービルダー』は非常に強力です。以前なら少なくとも1時間かかっていた作業が、今では30秒でできるようになりました」とPark氏は述べています。
結果的に、小規模な効率化の積み重ねによって、研究員は、より付加価値の高い活動に集中的に時間を費やせるようになり、それがビジネスに大きな利益をもたらすのだと同氏は説明します。
「私は、研究者が時間を費やす価値のない作業(データアクセスなど)を自動化したいと考えています。その代わりに、彼らには結果が何を意味するか、また、それに対して何をすべきかについて批判的に考えることに時間を費やしてもらいたいのです」と同氏。
Park氏が言う「ちょっとしたスクリプト作成」は、反復的なプロセスを自動化するのに役立ち、時間の節約がさらに進みました。たとえば、「通常5分かかるものを30秒で済ませる方法があると知っていても、節約できるのはわずか4分半ですが、それをたとえば350件の仕様のデータセットで掛けるとかなりの時間になり、その時間の節約は意味がある場合もありえます」と同氏は付言します。
Park氏のスクリプトにより、研究員は画面のボタンのひと押しで、自動的に正しいデータを取得して可視化できるようになりました。小規模であっても、自動化は桁外れの利益をもたらしているのです。
「標準化は間違いなく私たちにとって大きなメリットでした。(研究開発、オペレーション、品質において)標準化が進めば進むほど、企業としての意思決定の質も向上するのです」とPark氏は確信をもって言いました。