JMP® ユーザー事例
低消費電力メモリの技術革新を統計ツールで加速
大手半導体サプライヤーにおいて、製品開発重視のビジネスモデルを最適化する鍵を、オールインワンの統計ワークフローツールに見出す理由
Jeju Semiconductor Corporation
課題 | Jeju Semiconductor Corporation (以下、「JSC」) などのファブレス半導体企業は、製造プロセスをアウトソーシングし、ハイペースの研究開発にリソースを集中。 だが、このビジネスモデルのもとで働くエンジニアは、製造パートナーと顧客の両方とのデータアクセスとコミュニケーションを管理するという課題を克服する必要があった。 |
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ソリューション | 増大するデータアクセス、管理、分析、通信のニーズを満たすには、 Microsoft Excelの機能では不十分だと判明し、JSCのマネジメント層は 統計ソフトJMP®に注目。 JMPには、実験計画法、工程能力、品質管理等さまざまな目的に適したプラットフォームがあり、コードは不要。JMPは、プロセスの安定化と製品知識の開発に不可欠なツールであることが明らかだった。 |
結果 | JMP の導入で、分析時間が大幅短縮し、実験コスト等の削減にも成功。また、歩留まりを改善させただけでなく、プロアクティブなデータ駆動型エンジニアリングの社内導入についても重要な役割を果たした。 |
【事例概要】
・Microsoft Excelでは大規模データの整理・分析が非効率的だったため、統計的手法の適用や洞察の収集が制限されていた。
・JMPを導入し、実験計画法(DOE)や統計的工程管理によって効率化。データの整理、可視化、分析を1つのプラットフォームで実現。
・テスト組み立て工程での低歩留まりや不適合率増加が持続し、生産性を阻害していた。しかし、JMPの「カスタム計画」と「モデルのあてはめ」を活用し、鋸の条件やブレード選択を最適化。不良率を減少させ、2年間安定した量産を実現。
・チームでフェイルビットマップを作成し、分析結果を共有する際に、手作業やマクロ記述が必要で非効率的だったが、「グラフビルダー」によりスクリプト不要で直感的な可視化を実現。社内外でのコミュニケーションが円滑化。
・分析知識やスキルのばらつきが課題だったが、JMPを導入することで、データ分析の標準化と自動化を推進。チーム全体のスキルアップと効率的なデータ活用を実現した。
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近年、5Gおよびモノのインターネット(IoT)技術が爆発的に普及しています。そのため、半導体製造業者は、業界の長きにわたるトレンドであるチップ小型化の技術的革新を進展させるだけでなく、その技術をもとに、さらにエネルギー効率を高める重圧にさらされています。
従来、製造業者は研究開発と製造の両方に取り組んでいましたが、新素材の研究開発を成功させるため、継続的に多くの投資を続けることが現在の市場では求められています。
そのため、業界リーダーのなかには、組織の焦点を研究開発のみに集中させる新しいモデルに目を向けています。 このような半導体業界における「ファブレス」化の先駆者たちは、製造を契約製造業者(外注工場)にアウトソーシングすることで、加速した開発スケジュールに最大限のリソースを割り当てられるようにしています。
この分野をリードしているのは、ファブレス半導体製造業者のJeju Semiconductor Corporation(JSC)で、その社名は朝鮮半島の沖合に位置する美しい島である済州島に由来します。
システム半導体に注力する多くのファブレス企業とは異なり、JSCは低消費電力、大容量メモリのトータルソリューションを開発し、IoTおよび5G市場の先駆者となるべく高付加価値ビジネスを生み出しました。
同社の最適化されたスタティック・ランダム・アクセス・メモリ (SRAM) および同期ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ (SDRAM) 製品は、幅広い用途に使用されており、すでに世界中のスマートシティに大きな影響を与えています。
「メモリ半導体分野は、韓国のSamsung ElectronicsやSK Hynix、米国のMicronなど大手グローバル企業が独占していますが、JSCは低電力メモリというニッチ市場をターゲットにして技術への大胆な投資を行うことで、大きな市場シェアを確保しています」とJSC副総務部長のPu SangDon氏は説明します。 同氏によると、済州島に事業を移転して以来、同社は目覚ましい成長を遂げ、より環境に優しく、より持続可能な新しい種類の製品を生み出してきたそうです。
「安定成長に向けた事業構造の変革に努めた結果、メモリ半導体の応用範囲をNAND型フラッシュメモリやマルチチップパッケージなどの分野に拡大し、関連製品も300種以上にまで拡大することができました」とPu氏は語ります。
さらに、「JSCは現在、世界的リーダーであるQualcommとMediaTekを通じて5Gメモリ半導体の認証を受ける手続き中であり、今年は特に自動車エレクトロニクス分野のメモリ半導体分野で目立つ存在になると期待されています」と同氏は付け加えました(Pu氏の発言内容はインタビュー当時のものです)。
イノベーションを加速させる「ファブレス」ビジネスモデル、洗練されたアプローチが求められるデータ分析のコラボレーション
Pu氏は、研究開発への多額の投資により、革新的で優れたエンジニアリングが可能になったと語ります。 しかし、エンジニアリングスタッフの分析能力の向上に並行して取り組まなければ、投資だけでは不十分です。
「分析に対して特別なアプローチを取っているのは、もちろん当社だけではありません」と同氏は説明します。 「しかし、メモリ設計、製造、販売、マーケティングなど各分野の専門家がサプライチェーンのパートナーや顧客と有機的な相互協力関係を築いていて、それがデータに基づく意思決定から生まれたということがJSCの特別な点だと思います」とPu氏。
製造は、アウトソーシングされた半導体組立・パッケージング&テスト企業(OSAT)によってエンドツーエンドで実施されますが、外注の製造プロセスによって生成されるデータは、JSCの研究開発パイプラインにおいて極めて重要な役割を果たしていると同氏は説明します。
慎重かつ再帰的なデータ分析ワークフローの結果から学ぶことによってのみ、より高度でコスト競争力のある低消費電力製品を開発することが可能になります。 したがって、製造プロセス中に生成されたデータは、JSCの研究開発組織に送り返され、最終的に製品知識が次世代のチップ設計に反映される必要があります。
メモリウェハの製造における組み立て工程を担当するPu氏は、データ分析のあらゆる側面でOSATと緊密に連携しています。 「半導体の設計、製造、販売、顧客評価などの主な課題に対しては、それぞれ個別に対処するのではなく、フィードバックを与え、受け取り、それに基づいて行動することで、改善に向けて協力して取り組んでいます」と同氏は説明します。
たとえば、アセンブリパートナーから評価データまたは結果を受け取ると、JSCはそのデータを使用して独自の分析を実行し、実験計画法 (DOE) を使用して新しい実験計画を繰り返します。
実験計画、品質、能力分析のためのオールインワンプラットフォーム
DOEは、エンジニアが一連のカスタマイズされた実験を作成し、テストされた各ウェハから得られる情報を最大化するアプローチです。Pu氏の説明によると、DOEはJSCの分析ワークフローの重要なステップであり、そのワークフローには他に、OSATパートナーからの生データを社内分析用に準備するのに必要なデータアクセスと管理や、統計的工程管理、品質および工程能力分析などの統計的手法も含まれます。
長年にわたり、JSCのエンジニアはデータの整理だけでなく分析にまでMicrosoft Excel (以下、「Excel」)や他のさまざまなツールを使ってきました。 しかし、「このアプローチには明らかな限界があり、非効率的なデータワークフローがプロセスの安定化を制限していることがすぐに明らかになりました」とPu氏は言います。
当時、データは完全にExcel内で整理および分析されていました。 また、豊富な生データにアクセスできるにもかかわらず、ツールの不十分な機能や大規模なデータセットを処理できないことが原因で、エンジニアが収集できる洞察が制限されていました。
「Excelで実験データを適切に分析し、有意な結果を得るのは本当に困難でした」とPu氏は説明し、代替ツールを評価しているときに 統計的発見のためのソフトウェア「JMP®」に出会ったと付け加えました。 彼の目に最初に留まったのは、プラットフォームに組み込まれたDOEの機能でした。
「JMPには、統計を使用して、まだテストされていない領域も予測できる機能があります」と同氏は説明します。 「(JMPの 『実験計画』)を使用すると、過去の実験データを使用して最適な条件を特定することができ、長い間抱えていた慢性的な問題をすぐに解決できました。JMPはデータ分析において強力なパフォーマンスを発揮します」と同氏。
しかし、JMPを導入することによるメリットは、DOEだけにとどまりませんでした。JSCのエンジニアがすぐに気づいたように、このツールのおかげですべての分析ワークフローを 1つのツールに統合できたため、インタラクティブなウェハマップの作成や根本原因分析による無駄の削減等が可能になりました。
また、効率的な分割実験計画の策定や、複数ソースからの実用的形式でのデータ収集、さらに、社内外の関係者がすぐに理解できる説得力あふれた可視化による洞察の伝達も可能になりました。
「初めてグラフを作成したり、既存の分析に変更を加えたりする場合、JMP は他のどのプログラムよりも手作業が少なくて済み、非常に迅速に行うことができます」とJSCのOSATパートナーとのインターフェースやプロセス仕様の交渉をリードするJeong KyungYun主任は述べています。
「量産段階では、工程管理や歩留まり管理を担当しており、不具合や歩留まり低下などの問題が発生した場合は、JSCの技術設計・試験チームとともに根本原因を分析します。 その後、調査結果と改善策を工場に伝え、問題を解決して安定した量産を確保します」と同氏。
Jeong氏の説明によると、製品の不適合を分析するにはチームでフェイルビットマップを作成する必要があるようです。「Excelで記述すると、初期設定に時間がかかり、マップが完成した後でも、部分的な拡大や縮小を行うためのマクロを記述する必要があります」と同氏は付け加えました。
一方、JMPでは、スクリプトやコードを 1 行も記述せずに、「グラフビルダー」で直接マップを作成できます。 「これにより、分析に必要な時間が大幅に短縮されます」とJeong氏。また、こうしたコミュニケーションにおいては、「分析結果を数字や言葉で表現するよりも、視覚的なグラフを使用して内容を理解する方がはるかに効果的です」と同氏は付け加えます。これはまさにJMPが得意とする分野なのです。
データに基づく実験がもたらすエンジニアリング文化の変革
JMPの導入により、JSCのエンジニアリングスタッフは、受動的な一度に一要因の実験から能動的なデータに基づく意思決定まで、同社のエンジニアリング文化に大きな変化をもたらす一連の分析ベストプラクティスを標準化できるようになりました。Pu氏とJeong氏はともに、この変化がコストと時間節約の両面で目に見える影響をもたらしたと理解しています。
例として、Pu氏は、チームがダイ・チッピング・プロセスでずっと続いていた高い不良率を解決した例を挙げています。 彼によると、チームは材料の変更が必要かどうかを把握しようとし、JMPの「実験計画」と「モデルのあてはめ」を使用して、最適なデザインスペースと条件を迅速に特定することができました。
「JMPがなかったら、試行錯誤でもっと時間がかかっていたでしょうし、視覚的に表現するのも難しかったでしょう」とPu氏は言います。
別の例では、チームは、ダイがウェハ上で分離される最終のテスト組み立てプロセスにおける継続的な低歩留まりの問題を調査するように求められました。 このプロセスでは、仕様外の事象が発生し、その結果、欠けが発生する率が高くなります。
不適合率を減らして工程を最適化するために、チームはDOEで鋸のさまざまな条件を実験的に繰り返したとPu氏は言います。
「ブレードの種類やカット方法の変更から、選択した条件でのパラメータ調整実験まで、JMPの『カスタム計画』を使用して実験を実施しました。そして、JMPの『モデルのあてはめ』から導き出された最適化された条件を実装して以来、最終のテストプロセスではほぼ2 年間、低い収量が発生していません」と同氏。
「JMPがなければ、チームはおそらく一度に一つの要因しか調整できなかったでしょう。ビジネスへの影響を正確に数値化するのは難しいですが、上昇傾向にあると言って間違いないでしょう」と Pu氏は言います。
データまわりの非効率性と課題をJMP®で合理化し時間の節約と品質向上が可能に
チームはJMPが提供するすべてのリソースを最大限に活用して、このソフトの全機能を学習しました。そして、JMPを使えば使うほど、チームの分析能力も拡張しました。
さらに、Pu氏、Jeong氏、そして、JMPのエンジニアの協力関係が深まるにつれ、JSCがJMPに投資したことから得られる利益が拡大しました。
「JMPでデータを分析する際、生のデータを (JMP の担当者)と共有することがよくありました」と Pu氏は説明します。
「その後、自分の分析結果を JMPスタッフによる分析結果と比較し、分析が適切かどうかを相互チェックさせてもらいました。この関係が私の能力向上に貢献したと信じています」と同氏。
継続的な学習は継続的な改善の秘訣であり、JSCが自動化をさらに活用し続ける限り、チームの能力もそれに合わせて成長することが非常に重要だとJeong 氏は言います。
「システム化と自動化が進んでおり、今では製品マネージャーが分析した工場の製品データにアクセスすることで、誰でも基本的な分析やモニタリングを行うことができるようになりました」と同氏。
最後に、Jeong氏は「将来的には、収率の管理と分析システムの革新も目指しています」とJMPをさらに活用した今後の目標を語りました。