「JMPは、覚えてしまえば簡単にさまざまな解析を行えるツールです。ただ、統計知識は必要になるでしょう。これについても、初歩の初歩だけを学んでおいて、JMPを使いながら知識を身につけることができます。業務に必要なことですし、Webを検索すれば膨大な情報がありますから」
— キリンホールディングス株式会社
R&D本部 酒類技術研究所
小田井 英陽(おだい ひではる)氏
課題 | 部署移動により「多変量データ」を扱うシーンが増え、統計解析ツールの利用が必須となった。 |
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ソリューション | 統計解析の初心者でも学びながら使いこなせるツールが必要だった。また社内でJMPの使い易さを広める活動を行うことでJMPを使用した研究も増えている。 |
結果 | 官能評価と機器分析を橋渡しし、消費者の嗜好を科学的に分析することのできる統計解析ツールとして、JMPを利用している。嗜好調査のクラスター分析や網羅分析で成果を上げ、より高度な分析を行うためにJMP Proにアップグレード。国際学会で研究成果を発表するなど、先進的な分析を実施している。 |
キリングループは、「一番搾り」「本麒麟」「のどごし<生>」を中心に展開するビール類や、「氷結」に代表されるRTD(Ready To Drink:缶酎ハイなど)、ワイン、ウイスキー、そして「生茶」「ファイア」などの清涼飲料の企画・生産をはじめ、「食領域」「医領域」「医と食をつなぐ領域」において、その事業をグローバルに展開している。
キリンホールディングス株式会社R&D本部は、食の安全性を担保しながら消費者の味覚に受け容れられ、新しい価値を提供できる、研究・技術開発に力を注いでいる。同本部に属する酒類技術研究所では、ビール類とRTDの調査・研究を行っている。JMPは、その際に人間の五感を用いた「官能評価」と分析機器による物性評価である「機器分析」を結びつけ、網羅的な解析を可能にする統計解析ツールとして大いに活用されている。
酒類技術研究所 主任研究員 小田井 英陽氏(以下、小田井氏)は、「私は旧キリンビール医薬開発研究所に長く所属し、候補物質のスクリーニング探索などを担当してきました。当時の研究内容はExcelで事足りていたのですが、酒類技術研究所に移ってから多変量データを扱うシーンが増えたのです。統計解析ツールがなければ太刀打ちできず、それがJMPと出会うきっかけになりました」と話す。
「JMPは、覚えてしまえば簡単にさまざまな解析を行えるツールです。ただ、統計知識は必要になるでしょう。これについても、初歩の初歩だけを学んでおいて、JMPを使いながら知識を身につけることができます。業務に必要なことですし、Webを検索すれば膨大な情報がありますから」
— キリンホールディングス株式会社
R&D本部 酒類技術研究所
小田井 英陽(おだい ひではる)氏
2009年、小田井氏が醸造研究所(現在の酒類技術研究所)に来たころにも、いくつかの統計解析ツールは利用できる環境にあった。しかし、それらのツールは古いもので、マニュアルも整備されていなかった。統計解析の初心者が使いこなすためには、かなりハードルが高そうだったという。対して、JMPは扱いやすそうだった。グラフはビジュアルでわかりやすく、元のデータと連動しているため、グラフから探索的な解析を行えることも魅力だった。
トライアル版を試し、手ごたえを感じて導入を決めた。当初はJMPに慣れるところからスタートし、初心者向けのセミナーに参加したり、書籍やオンラインヘルプを参考にしたりしながら、徐々に習熟していった。
「JMPは、覚えてしまえば簡単にさまざまな解析を行えるツールです。ただ、統計知識は必要になるでしょう。これについても、初歩の初歩だけを学んでおいて、JMPを使いながら知識を身につけることができます。業務に必要なことですし、Webを検索すれば膨大な情報がありますから」(小田井氏)
JMPを利用してまず実行したかったのは、嗜好調査の結果分析だった。研究所では、消費者調査の前段階として社員の協力を募った社内調査の活用を考えていた。消費者調査にはコストと時間がかかるため、社内調査をより広く活用できればコスト抑制が期待できる。とはいえ、社員はキリンの飲料に慣れ親しんでいるため、自社製品に好みが偏っているリスクがある。この2つの調査を比較し、どれほどの乖離があるのかを統計的に調べてみたかったのだ。結果は思い描いたとおりのものだった。消費者調査と社内調査のクラスター分布はほぼ変わらず、類似した傾向が発見された。「社内調査の結果は、統計的な見地からも十分参考にできる」という結論が得られたことになる。
網羅分析にも取り組み始めた。官能評価と機器分析を組み合わせ、消費者の嗜好と数千におよぶ成分情報の相関を見るためだ。網羅分析を使えば、どの成分が嗜好や香味のどの項目に影響するのかを詳細に確認することができる。たとえば、レモンの香りはシトラールを中心に数多くの香気成分の組み合わせにより出来ている。一般的な酎ハイは濃縮還元果汁などにアルコールやフレーバー等をつけて仕上げるが、同社のトップブランドである『氷結』は、その名のとおり濃縮還元果汁を使わず、ストレート果汁を凍結させたものを使用している。キリン 氷結® シチリア産レモンにいたっては、はるかイタリアのシチリア島からレモンのストレート果汁を凍結させて輸入している。ただ、調味料や香料に慣れた消費者の中には、人工的なフレーバーを“いつものレモン”と認識するクラスターも見られる。その決め手になる香気成分が何なのかをJMPを使って探り出す。
同社のトップブランドである『氷結』は、その名のとおり濃縮還元果汁を使わず、ストレート果汁を凍結させたものを使用している。キリン 氷結® シチリア産レモンにいたっては、はるかイタリアのシチリア島からレモンのストレート果汁を凍結させて輸入している。ただ、調味料や香料に慣れた消費者の中には、人工的なフレーバーを“いつものレモン”と認識するクラスターも見られる。その決め手になる香気成分が何なのかをJMPを使って探り出す。
JMPを使って業務を進める中で、重回帰分析ではうまく当てはまらないケースでも、PLS回帰(食品業界で広く使われる統計手法)やニューラルネットワークを使えばぴたりとはまるものがあった。そして、より高度なニーズが出てきた。データマイニングや予測などの機能を備え、多様な非線形モデル式や予測式などを使いたい、というものだ。そのニーズにこたえたのが、最上位モデルのJMP Proだった。JMP Proなら、検証法の選択や、予測モデルの比較が可能である。
こうして、小田井氏はより高度な分析に取り組み始めた。網羅分析は、情報量が多ければ多いほど解析精度が高まる。一方、ニューラルネットワークなど“学習型”のモデルで変数を増やすと処理速度が遅くなる。そのため、PLS回帰の変数重要度などで絞ってからモデリングするなど工夫しながら解析に取り組んでいる。網羅分析の成果は、欧州で開催された官能評価の学会「EuroSense 2018」で発表し、国際的にも高く評価を受けるまでになった。
後進も育ってきた。当初は小田井氏だけがJMPを利用していたが、同僚たちの分析・解析課題の相談に乗る中で、JMPの使いやすさを広める活動を行った。また、JMPを使うべき研究も増えてきた。いまでは、「軽く使う程度なら」というスタッフを含め、業務を円滑に進める(効率よく進める)において更なるライセンスの配布が必要な状況にある。酒類技術研究所では、生産工程の予測等にAIおよび機械学習を適用することも検討しており、その目標値設定や結果検証などでもJMPが生かされる分野は増えてきそうだ。
小田井氏は、「私たちの業務は、データに基づいた客観的な判断が大前提。データを正しく読み解くために、統計が必要になってきます。JMPは、そのために最適なツールでした。他研究所でもライセンスを購入する予定ですし、本部内での様々な分析・解析課題にこれまでのノウハウを提供していきたいと考えています」と話している。
「私たちの業務は、データに基づいた客観的な判断が大前提。データを正しく読み解くために、統計が必要になってきます。JMPは、そのために最適なツールでした。他研究所でもライセンスを購入する予定ですし、本部内での様々な分析・解析課題にこれまでのノウハウを提供していきたいと考えています」と話している。(小田井氏)