医療統計学講座の午後の実習風景。異なる統計スキルを持つ4~5人ずつの班で、互いに統計を教えあいながら問題を解決する。
京都大学大学院 医学研究科
医療統計学初心者にも扱いやすいJMPを教育に活用
学部内ライセンスの導入で個人PCへのインストールも可能に
チャレンジ | 公衆衛生の実務者を養成する専門職大学院として、多様なバックグラウンドの学生に医療統計学をスムーズに学んでもらう |
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解決策 | 初心者にも扱いやすいJMPを学生全員が使うことで、医療データから意味のある結果を自ら導き出す経験をする |
結果 | JMPの使いやすいインターフェースにより、統計の初心者も経験者も、医療統計学への理解を飛躍的に高めることができた |
京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻は、全面的にJMPを採用して医療統計学の講義と実習を行っている。
公衆衛生の実務者を養成することを目的とする専門職大学院として、多様なバックグラウンドの学生を集めるため、JMPの“扱いやすさ”と“とっつきやすさ”はスムーズに学んでもらうことに大いに役立っている。
統計の不思議さや面白さを実感してもらう
京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻(以下、SPH)は、公衆衛生の実務者を養成するため、2000年に国内で初めて開設された専門職大学院だ。
専門職大学院の最大の特色は、担当教員に課題研究内容をプレゼンテーションし、それに合格するとMaster of Public Health(MPH)の学位(社会健康医学修士(専門職))を授与されることだ。論文の執筆とは違った厳しさがあり、内容も高度になる。社会人入学も認められているため、医師や看護師、薬剤師、理学療法士など現役の医療関係者や製薬メーカーの研究者も学ぶ。学部卒生と社会人はおよそ半々だ。
SPHの学生数は、1学年あたり約35人。医療統計学は必須科目である。それに加えて、医学研究科全体で70人程度が医療統計学を受講する。前述のとおり学生のバックグラウンドは多様であり、クラスに数人は統計学を学んだことのない学生がいる。彼らに統計の概念を理解させ、最終的に同分野における研究計画書を作成できる能力を身につけさせるのが、医療統計学のゴールになる。
京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻 医療統計学分野 教授 保健学博士 佐藤 俊哉氏は、「たとえば、100人の集団を二項乱数で2つに分ける場合を考えてみましょう。実際にはアンバランスになるケースが多いのですが、初心者は50人の集団が2つ出来ると思い込んでいるものです。このような初心者に正しい感覚を身につけてもらうために、リアルなデータを扱うことで統計の不思議さや面白さを実感してもらうことから
始めます」と話す。
公衆衛生分野における統計では、“交絡(こうらく)”を理解することが大切だ。新しい治療法や薬を試す際に、重篤な患者ばかりにそのやり方を適用すると、従来の手法より悪い結果が出てしまう可能性が高くなる。患者の背景を均等化することで、初めて意味のある結果を示すことができる。統計学が身につけば、こうした交絡の概念も腑に落ちる。
すべての学生が自分のPCでJMP Proを利用
講義は、午前に医療統計学の座学、午後に実習と2段構えで行う。座学で学んだことを午後に実際にやってみるという流れだ。当初は午前の内容を実習するのは数週間ずらし、最後に追いつく。初期の実習を、統計学の概念とJMPの扱い方を身につけてもらうための時間にあてるためだ。
前期は佐藤氏が担当し、「医療統計の基本的な考え方を自分なりに理解し、JMPで集計と統計計算を行える」ところまで持っていく。実習では、同じバックグラウンドを持つ学生が重ならないように4~5人で1つの班とする。そして、同じ班に統計初心者と上級者を配置することで、学生同士が教え合う環境を作る。後期に入ると、准教授 博士(工学) 寒水孝司氏の講義と実習により、統計の問題を解決できるレベルまでスキルを高める。すでに基礎は身についているため、実習の班はランダムに決める。
「統計初心者だった学生も、前期の内容を踏まえて回帰モデルくらいはきちんと理解し、JMPを使ってデータ解析できるようになります。ここまで来ると、交絡の概念も理解できます」(寒水氏)
実習では、公開されている医療データを用い、解析に取り組ませる。データをクリーニングすることの大切さを理解してもらうため、データは公開されている状態のままで使用させる。データを解析するJMPは、大学院内で無制限に利用できる教育機関向けのライセンスを契約している。そのため、学生が個人のPCにフル機能を使えるJMP Proをインストールし、自宅で復習することも可能だ。
JMPの扱いやすさは統計教育に最適
教育にJMPを使う最大の理由は、その扱いやすさにある。佐藤氏は、「表計算ソフトに近い感覚で高度なことまででき るJMPは、入り口として最適です。コーディングが必要な統計ソフトは初心者には厳しいですから。私自身の研究でも、SASでしかできない計算以外は、すべてJMPを利用しています」と話す。
SASとJMPにそれぞれ得意分野はあり、優れたところをうまく使い分けることも重要だ。寒水氏は自身の研究はもっ ぱらSASと言うが、「JMPの方が簡単かつビジュアルに描けるグラフも多くあります。たとえば、多変量の散布図行列や相関係数行列などはJMPでやる方が楽です。共同研究で相手に解析結果を説明するときにJMPを使うこともあります」と話している。
高度な演算をしようとすると追加ライセンスを購入する必要の出てくるソフトも市場にはあるが、ライセンス内でフル機能を使えるのもJMPの魅力だ。無償公開されているスクリプトライブラリを利用して特殊な演算機能を追加するなど、工夫してJMPをより幅広い分野で扱えるようにしている。
学生からの評判もいい。JMP以外の統計ソフトを使ったことのある学生は、JMPの扱いやすいユーザーインタフェースとナビゲーションにすぐに慣れることができ、初心者からは「あるとき、突然できるようになる」という声をよく聞くという。学習による習熟は、なだらかな曲線を描くのではなく、階段を上がっていくようなイメージになることが多い。そのブレイクスルーが起きるタイミングで、飛躍的に理解が高まるようだ。
現在のライセンス形態では、講義を取っていない学生および教職員も使えるため、JMPをインストールした人数は 200人を超える。2014年にJMPの技術者を招き、講習会を開いたところ、100人を超える教員・学生が参加した。このように、医学研究科でJMPへの注目は高まっている。
さらに京都大学全体では、薬学部や一般教養の統計学の講義で学生の自習用に使いたいというニーズも出てきた。中でも薬学部からは、「解析結果を信頼できる商用ソフトを使って講義をしたい」という具体的な要求もあることから、ライセンス管理の主管を調整できれば、京都大学の全学部で使えるCampus-Wideライセンスの導入に踏み切りたい考えだ。
※ 本事例に記載の内容は2014年10月時点のものです
表計算ソフトに近い感覚で高度なことまでできるJMPは、入り口として最適です。
佐藤 俊哉 氏
京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻
医療統計学分野 教授 保健学博士
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