ユーザー事例
裏庭から世界へと広がる、野生動物保護活動
生物学者と市民科学者が協力し、哺乳類の分布に関する価値あるデジタルアーカイブを構築
ノースカロライナ自然科学博物館
課題 | 世界の哺乳類の分布パターンを監視し、人間が及ぼす影響を理解、研究結果を今後の方針決定に役立てる必要があった |
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ソリューション | 市民の協力を得て、動きや熱に反応するカメラトラップで野生動物のデータを収集。JMP®を使用して、この世界的な取り組みから生まれた膨大なデータを処理 |
結果 | JMPの対話的なインターフェースは、新しい保護研究や発見に役立つだけでなく、世界中の人々が科学や環境に関わることを可能に |
ノースカロライナ自然科学博物館(NCMNS)は、スミソニアン保全生物学研究所と共同で、世界の哺乳類の現存状況をマッピングした広大なデジタルアーカイブを作成するプロジェクトを率先して進めています。
このデータベースとそのオンライン版であるeMammalは、学校の子供たちからプロの生物学者まで、誰もが哺乳類について、その分布や個体数がどのように変化しているのかを知るために利用できるリソースとなっています。
裏庭でデータを収集して協力する市民科学者たち
データ収集ネットワークを構築するために、NCMNSとスミソニアン博物館はデータの収集と処理を手伝ってくれる一般市民のボランティア、いわゆる「市民科学者」に協力してもらっています。
プロジェクトの仕組みは簡単です。カメラトラップ(野生動物撮影用の設置型自動撮影カメラ)を配布し、住んでいる場所の近くの屋外に設置してもらうというものです。森や野原、自宅の庭などに設置されたカメラトラップの前を動物が通過すると、人感センサーや熱センサーで作動し、赤外線フラッシュライトで撮影します。
「カメラトラップはとても簡単に扱えるので、市民科学者にデータを集めてもらうことができます。データを管理し、ボランティアから簡単にデータを入手するために、さまざまなツールを開発しました」と生態学者でeMammalプロジェクトのコーディネーターであるArielle Parsons氏は述べています。
ボランティアはカメラトラップを数週間設置した後、撮影された画像データをダウンロードして、カメラトラップを新しい場所に移動させることもあるそうです。彼らがeMammalでタイムスタンプ付きの画像を記録して識別すると、そのデータはスミソニアン博物館に送られ、証明書付きの博物館の標本として永久データ保管庫に保存されます。
データモデリングが大規模な多変量データの処理に貢献
大規模な公共データ収集活動の利点は、結果として得られるデータが生物多様性の豊かな姿を示し、NCMNSのような地方の一機関が従来よりもはるかに大規模に種を調査できることだとParsons氏は言います。しかし、現実的には、このような取り組みは膨大なデータを生み出すため、データのクレンジングや分析などを担当する彼女のような科学者にとって、その工程は難解で時間がかかることもあります。
多くの場合、その分析は分布という形で行われます。占有モデルは、さまざまな野生生物種が地域内でどのように分散しているかを示すのに役立ちます。「どこかに動物がいるという確率だけでなく、(ある特定の場所に)動物がいればそれを検出できる特定のモデルがあります。でも、時には不正確な結果を示すこともあります」とParsons氏は言います。
「日ごと、季節ごと、空間ごとに変化する変数が非常に多いのです。たとえば、私たちはそれぞれのカメラの設置場所の環境要因として、土地に占める農地の割合や、雨量や雲量といった日常の天候も考慮しています。そのため、共変量の数が膨大になり、その中から選択する必要があります。自然の変動を可能な限り捉えることができる(因子の組み合わせ)を考えなければなりません。野生動物の分布を最も正確に把握するにあたって、どの変数をモデル化する必要があるのかを考えるために私はJMPを使用しています」とParsons氏。
同氏は、JMPの主成分分析(PCA)が、因子間の関係を判断するのに役立つと述べています。「Rでも実行可能ですが、非常に時間がかかってしまいます。JMPでは1クリックでPCAを実行できます。また、Rで使用されるコマンドライン・インターフェースはプログラミング経験がない限り非常に難解であり、Rの学習曲線はあまり芳しいとは言えません。たとえば、PCAや相関行列などは、少なくとも3~4行のコーディングが必要になります」と同氏。
JMPのグラフビルダー機能は、Parsons氏が元のコホート(群)を9~10の共変量にまで絞り込んだ後、データを可視化するための重要なツールです。「係数の推定値が、正しくなさそうなモデルから得られることがあります。この時、JMPに戻って共変量と応答の関係をすばやく可視化することは非常に役に立ちます。プロットを並べて見ると、実際に相互作用があるかどうかを確認できますが、これはJMPの方がRよりもずっと速く行うことができます」と同氏は説明します。
人間が野生動物の個体群に与える影響をデータ分析で把握、今後の方針が明確に
世界中の保護区には2つの使命があります。まず、レクリエーションのために土地を提供すること。その活動が消費型(狩猟や捕獲など)であっても非消費型(ハイキングやサイクリングなど)であっても同様です。2つ目は、地域の動植物の生息地や野生動物そのものを保護することです。「第1の使命を果たしながら、第2の使命をどれだけ達成しているかをeMammalのデータを使って判断しようとしています。」とParsons氏は言います。
同氏の分析結果によって、レクリエーションに関する変数が、生息地や管理方法に関する変数よりも動物の分布に影響を与えているかどうかが分かります。そして、Parsons氏と同僚は、これらの調査結果を、野生生物の保護や管理を決定する責任者と共有します。
NCMNSは、ノースカロライナ州野生生物資源委員会の責任者と直接提携し、最新の市民科学プログラムとして、Candid Crittersプロジェクトを立ち上げました。このプロジェクトは全州で展開されており、住民や政策立案者にとって、人間と動物が公有地に共存していくための重要な資料となることが期待されています。Candid Crittersでは、ボランティアが撮影した画像をeMammalデータベースに登録することで、これまでにないレベルのデータを収集できます。
また、eMammalにアップロードされたデータは、犬などの家畜が野生動物に与える影響を明らかにするといった、より具体的な問題の解決にも役立ちます。Parsons氏によると、野生動物はペットとの遭遇を避けるために行動を変えることがあり、犬が野生動物に影響を与えていることが何度もデータで示されているそうです。
「私たちは、野生動物の遭遇回避行動と、設置されたカメラによる探知結果の時系列分析を行い、野生動物が犬や人間が比較的最近使用した場所を避ける傾向があることを発見しました。またコヨーテの場合も同様です。これには匂いが関係しているのではないかと考えています」とParsons氏。
Parsons氏によると、今回の分析ではレクリエーションの面だけでなく他にも興味深いパターンが明らかになってきており、現在進行中の人口生態学の研究にも面白い影響を与えているそうです。たとえば、同氏のチームは、狩猟が許可されている地域にはコヨーテが多く生息していることを発見しました。
「直感に反するようですが、狩猟によって(コヨーテの)社会システムが破壊され、縄張りが拡大しているのかもしれません。この点は、生態学者が現在調査中です」と同氏は述べています。
科学的知識の共有に役立つデジタルアーカイブ
プロジェクトのデジタルアーカイブは、組織や機関の科学的研究の手助けとなるだけでなく、アメリカ南東部から遠く離れた人々にも学びと刺激を提供し、保護に関する疑問が生じた際にその答えを見つけられる公共のリソースとしても機能しています。
「ポータルサイトでは、簡単なデータ分析ツールを使って、誰もがデータを楽しく操作できます。また、このプロジェクトはカメラを操作するボランティアやデータを操作したい人など、一般の人が参加できるプロジェクトになると考えています。私たちが行っている研究を一般の方が簡単に理解できるような方法で伝えることを意識しています。」とParsons氏は言います。
NCMNSとスミソニアン博物館は、市民科学者との実りあるパートナーシップのおかげで、これまでならあり得ない規模で人間が及ぼす影響を調査しています。また、複雑なデータを扱う新しい技術は、研究機関と一般市民の間のギャップを埋める重要な役割を果たしています。
「(一般に公開する)結果には本当にシンプルなグラフを添付することが多いのですが、その際、データを表示する最も簡単な方法であるのが、JMPのインターフェースなのです」とParsons氏は締めくくりました。