デンマークに本社を置くNovozymesは、ヨーロッパで最も革新的なバイオテクノロジー企業として知られており、最先端の科学を駆使して、変化し続ける地球の課題に取り組んでいます。酵素と微生物の開発における同社の画期的な取り組みは、現在、生分解性洗剤(ソフト洗剤)から植物ベースの代替肉に至るまで、あらゆるものに利用されています。
「Novozymesは、非常に積極的な姿勢でバイオテクノロジーの限界に挑んでいます」と同社の農業・産業バイオソリューション部門をサポートする主任データサイエンスエンジニアのMichael Akerman氏は語っています。化学工学分野出身のAkerman氏は、Novozymesでバイオ燃料の実験からキャリアをスタートさせ、現在はデータ戦略を効果的に実現するために、全社的に注力している分野の1つである社内での統計スキルの向上を研究開発部門において主導しています。
「科学はもっとデータ駆動型であってほしいと考えています。多くの場合、科学は観察とそこから生まれる直観を重視しすぎ、一度に一つの要因しか扱わないといった古いやり方に従って、直感レベルで実践されてきたと思いますが、現代世界の複雑さを考えると、これでは不十分です」と同氏は語ります。
物理的な研究室の限界を超えて
持続可能性を重視するNovozymesは、環境により優しい未来を実現するために、混迷する現況とそれを克服するためのイノベーションが必要であることを理解しているという点で他の企業よりも多少有利な立場にいるかもしれません。
そのような姿勢が、最先端のデータ活用法によって科学をもっと理解し、業務に役立てようとするデータ分析の変革にもつながりました。Akerman氏は、同社がバイオ燃料のような中核分野での規模拡大を図った際に、科学者がどれほど頑張っても研究室の物理的仕様には限界があり、科学から得られる価値を最大化するには新たなアプローチが必要であることを経営陣が認識したと説明しています。
「この複雑化する世界で、より多くのニーズに応えて人々のために世界を改善するには、より多くの製品を提供する必要があります。でも、品質基準を維持しながらこれらのニーズに対応するのはより困難になっています」とAkerman氏。
「Novozymesの科学部門のリーダーは皆、優れた科学を実践することを大切にしています。ほとんど全員が科学者としての経歴を持ち、科学関連の組織で勤務した経験があり、次のレベルの科学の実践に意欲的です」と同氏。Novozymesは、社内で科学の実践を次のレベルに進展させるため、まず、科学者がどのようにデータに向きあっているかを再考することから始めました。
統計的アプローチが変える科学への向きあい方
Akerman氏は、統計的アプローチによって科学研究により良い変革がもたらされうると強く信じており、Novozymes経営陣のなかには彼の考えに同調する人もいます。
同氏は、統計によって実践される科学は企業により大きな価値をもたらすだけでなく、最終的に世界中の人々にも同様の価値をもたらすと指摘し、その理由を以下のように説明します。
- 統計による科学の質の向上。「従来の科学実験でよくある偏見を回避するには、統計という客観的手法で問題を解決する姿勢を持つことが極めて重要です」とAkerman氏。
- 統計によるコスト削減。「製品設計の段階で誤りがあると、会社に多大な損害が発生します。科学者が絶対に大丈夫だと自信をもっていても、実際にはその製品が機能しないと判明すれば、会社にとって多大な損害となります」と同氏。
- 統計知識の深化による、科学者の専門知識の最大限活用。分析という点では、生物学的システムは非常に複雑であることを指摘しつつ、Akerman氏は、「教科書に既に書いてあるような設計をそのまま使うと、従来的な最適化における制約が生じます。そのため、当社では統計知識を最大限に活用して研究開発に取り組んでいます」と述べます。
- 統計ツールによる同僚とのコラボレーションや既成概念にとらわれない考え方の促進。「私たちは、研究室、データ、知識共有プロセスの多くを自動化しています。そうすることで、データを他のチームと共有しやすくなりました。(科学者がデータ環境に慣れれば)チームがデータの意味を理解した状態で一緒に仕事をできるため、作業が分断されることはありません」と同氏は述べています。
突き詰めれば、Novozymesでは実験をよりスマートに実施する方法を模索していて、その方法とは実験結果を分析し、特性を見極め、同僚に洞察を伝えるのに役立つツールのことを意味していました。「キャリアをスタートした当時は、同僚に効果的な実験計画法の実施や、より役立つ分析・可視化のやり方を教えていました。これは統計の限界、ひいてはデータサイエンスの限界に挑戦する取り組みの一環です」とAkerman氏は付言しました。
「今では、あらゆる科学者が自分で実験を行うようになり、それぞれに高度の専門分野が存在するような状況になっているため、Novozymesでは統計をすべての社員が使える知識にする必要があると考えています。そのため、当社では、統計学者が常駐してすべての実験の分析を行うのではなく、科学者自身の手によってデータ分析がなされています。」
戦略的パートナーシップで統計をすべての社員に
多くの企業が科学者をサポートするために統計チームをわざわざ設置しているのに対し、Novozymesは社内全体で統計能力開発に取り組むという異なるアプローチを取ったとAkerman氏は説明しています。具体的には、社内の科学者全員のために、統計手法を自身の研究に活用するためのツールとトレーニングが提供されています。
「データの分析が必要になるたびに、統計チームと科学者の間でデータがやり取りされていては、多大なリスクが伴います。データ分析の際に、分析者に専門知識が絶対に必要不可欠なのです」と同氏は語ります。そこで、研究開発部門全体の統計能力が向上すれば、科学者は統計を活用して自身の生物学における専門性を高め、最終的にはその過程でより深い製品知識を得ることができます。
とはいえ、これには2つの大きな課題が伴います。まず、科学者が統計学的アプローチを正しく実行できるようにトレーニングとリソースを提供する必要があります。次に、経営陣がトップダウンでこのやり方を推進し、新しい方法論にまだ懐疑的な科学者を説得する必要があります。
これらの課題を克服する鍵となったのは、JMP®の採用だったとAkerman氏は述べています。統計的発見のためのソフトウェアであり、実験計画法(DOE)の業界リーダーであるJMPは、プログラミング不要で、ノートパソコンからでもストレスなく操作でき、使いやすいプラットフォームに必要な機能がすべて装備されているため、初歩的なデータの可視化から高度な関数データのモデリングまで、幅広い統計機能を利用できるのです。
「JMPは、科学者が洞察を得るにあたって、信頼して使用できる数少ないツールの1つです。どの分析でも、初期設定のままで使い勝手がよく、分析の経過も含めて理解しやすいですし、JMPの可視化ツールを使用すると、多種多様な変数がある場合でも、データを多角的に検討しやすくなります。また、グラフビルダーはとても使いやすいので、JMPを始めてすぐの人はすぐにその虜になるでしょうし、すべての分析や可視化の機能に関するヘルプやマニュアルはいつでも簡単に利用できます」とAkerman氏。
Akerman氏は、JMPに単なるソフトウェア以上の可能性、たとえばNovozymes社内に広く分析文化を根付かせるきっかけのようなものを見出しました。そして、JMPはNovozymesと戦略的パートナーとなり、データワークフローの改善が必要な領域を評価したり、トレーニング、リソース、JMPのエンジニアへのアクセスを提供することで、同社をサポートしてきました。
Novozymesの社風は、統計的手法の活用に積極的であったため、社内では統計スキルが向上し始めました。「弊社の科学者は皆、向上心を持っていて、より優れた業務を行い、業務の手順を改善することに関心があります。しかし、誰もが真っ先に統計的手法の活用に飛びついたものの、学校教育課程では必ずしも統計学が重視されていなかったため、彼らには科学者に求められるほどの知識がありませんでした」とAkerman氏。
幸いにも、JMPは新しいトレーニングを社内で大規模に展開するにあたって、それをサポートしてくれる最高のパートナーでした。具体的には、無料オンライン統計コース「製造業における問題解決のための統計的思考」(STIPS; Statistical Thinking for Industrial Problem Solving)のようなリソースや、親切なJMPの専門家チームによるサポートが役立ちました。Akerman氏は次のように述べています。「弊社の課題は、科学者たちに素早く統計に精通してもらうことと、新しいスキル習得に必要なリソースを用意することでした。STIPSはこれらの点で非常に効果的だったのです。STIPSは、自分が実際の業務で扱っている内容を中心に、(動画や演習等のコンテンツで)具体的に学べるので、スキルアップの手始めとして極めて優れていると言えます。」
経験ゼロから世界的リーダーに
ビジネスでの大きな成功を収めたことで、Novozymes社内で統計トレーニングの需要がさらに強まり、データ駆動型の科学の普及が早まりました。これらの成功のなかでも、おそらく最も劇的なものは、バイオ燃料酵母に関するものでした。酵素発現酵母の分野では比較的後発のNovozymesは、研究開発のペースを加速するために統計を使った変革を目指しました。
具体的には、研究開発部門発足の初期段階で、Akerman氏のチームは、データの共有をスムーズに行い、コミュニケーションを容易にし、シームレスに作業を継続するためのシステムを開発するよう求められました。「科学者たちは、JMPで作業しながら、多大なエネルギーと集中力、そして、努力をもって私のチームと協力し、以前よりもデータを意味あるものにするためのデータ活用法の理解に取り組みました」と同氏は説明します。主な目標は、比較的少ないスクリプトでデータワークフロー全体を合理化することでした。これによって自動化が達成され、再現性が可能になっただけでなく、実験のペースが速まり、より協力的な取り組みが実現しました。
結果として誕生したシステム、「MissionControl for Biofuel」は、イベントハンドラーを使用して、菌株の構築と設計から、応用研究ラボでのテストとスケールアップまでのアッセイデータを引き出すJMPのデータテーブルを備えています。これらのデータストリームは、JMPとPythonそれぞれのスクリプトの組み合わせによって収集され、科学者が複雑度に関係なく、データを極めて容易に検討、調査できる形式で展開されます。たとえば、MissionControlの動的インターフェースパネルには、遺伝子系統、測定された遺伝子型、製造可能性の概要、実験履歴が表示されるため、科学者が従来のデータアクセスの課題を回避できるようになります。Akerman氏は、このシステムによって、これまで不可能だった多層的な製品理解と、優れたユーザーインターフェースによるデータ探索の充実した体験を得られると述べています。
「『MissionControl』は、酵母に関する科学実践を変革する革新的な機能で、一連のさまざまな画期的手法のひとつです。最終的に、チームはわずか数年でバイオ燃料酵母において経験ゼロの段階から世界的リーダーに成長することができます」とAkerman氏は述べています。
JMPによる自動化がもたらす大きな価値
Novozymesの科学者たちは、標準化された自動ダッシュボードをそれぞれが活用し、さまざまな統計手法を駆使できるようになりました。社内で統計を誰でも使えるようにするという試みは、実を結んだのです。「自動化を全社的に行うのが難しくてもかまいません。まずは一部であっても、科学者が統計ツールを活用することで得られる恩恵は大きく、それを今後増大するきっかけになるのです」とAkerman氏。
「今ではデータ分析に携わるすべての人々が、分析をより迅速に行い、自動化を進め、以前実施した分析を再活用して無駄を省こうと試みています。そのため、私のチームは分析の自動化によって科学者が、より効率的かつ効果的にデータを扱うためのツールを構築することに注力しています」と同氏は述べ、一例として、特定の手法を簡単にパッケージ化して複数の科学者に共有できるJMPスクリプト言語(JSL)を使用すると、他の科学者が同じ方法を再現することが可能になり、このような再現性が実験結果の正確さへの信頼につながることを挙げました。
Novozymesでは、共同使用とバージョン管理を容易にする内部ツールを開発することで、JMPアドインの構築と共有をさらに進めています。たとえば、ユーザーはJMPのどのプラットフォームでもJSLスクリプトを保存して社内イントラネットにアップロードでき、社内のユーザーはすぐにそのスクリプトを利用できます。しかも、スクリプトは自動的に更新されます。(詳しくは、2021年のDiscovery Summit Americasで行われたAkerman氏の講演「写真をアップロードするのと同じくらい簡単 : アドインを自動的に構築、共有、更新」をご覧ください。)
統計ツールでバイオテクノロジーの未来を築く
こうした成功の経験からAkerman氏は、Novozymesが取り組む科学分野だけでなく、より広範な科学分野のプロセスで、将来、有意義なイノベーションが生じるかもしれないと考えています。「科学者の日々が大きく変わる可能性に興奮します。科学に携わる同僚たちが、科学をより簡単に、より効果的に研究できるようになるという意味でも、また、彼らのデータが、単なる1回の実験限りのもので終わらず、より有意義な形で、時を超えて人々の心に響き、世界に与える影響がより大きくなるという意味でも」とAkerman氏は語ります。
同氏は最後に、「酵素製品であれ、微生物製品であれ、より速く、効率的に、高品質なものを製造できれば、市場へのインパクトはとても大きいものになります。そして、(社内の分析環境を整備し向上することで、)より効果的にバイオテクノロジーの未来を築くことが可能になれば、それによってNovozymesの企業としてのインパクトもより大きなものになるのです」と結びました。