ユーザー事例
小野薬品工業株式会社
品質を作りこむ製造プロセスの設計に統計的アプローチを活用
JMPを活用し、頑健なプロセス構築を目指す
小野薬品工業株式会社(以下、小野薬品工業)は、ICHガイドラインが推奨している新しいプロセス構築の手法として、統計的手法を活用している。医薬品・原薬の品質管理には複数因子が関わることが多く、最適な製造操作範囲を設定するためには、因子間の交互作用を把握することが重要だ。JMPを活用し、統計的アプローチによりその目的を達成し、頑健性の高いプロセスの構築を目指す。
品質を作りこむ製造プロセスの設計
小野薬品工業は、1717年に創業。独創的かつ画期的な医薬品の創製をめざして取り組んでいる。「病気と苦痛に対する人間の闘いのために」を企業理念とし、さまざまな新薬を開発。最近では、同社の開発した抗PD-1抗体「オプジーボ」が夢のがん治療薬として、全世界で大きな注目を集めている。
その同社は、多くの製薬業者と同様に、原薬生産における品質管理への取り組みを加速している。かつて医薬品は、「効くこと」がすべてだった。近代に入って「品質が担保されていれば良い」というところまできた。それに、新たなICHQカルテットと呼ばれるガイドラインが加わり、品質を製造工程で造り込む「Quality by Design(QbD)」の概念が導入され,品質についてさらに突き詰めることが求められるようになった。
品質を担保するためには、生産過程を深く理解し、複数ある製造パラメータの関係性を明らかにする必要がある。その複数パラメータの交互作用が絡み合うマトリックスの中で、確実に高品質な原薬を生産できるDS(デザイン・スペース)を設け、DSの枠内で生産を行う。小野薬品工業は、品質に影響を与える重要な製造工程に対して、統計的アプローチを活用することにより、頑健性の高いプロセスを構築する仕組みを定着させつつある。
CMC・生産本部 合成研究部 プロセス開発第二グループ 村瀬 辰史氏は、「従来型の経験に基づく実験をさらにブラッシュアップすることも1つのやり方です。ただ、私たちはプロセスの理解を深めるために、パラメータと品質の関係をモデル化する統計的なアプローチに魅力を感じました」と話す。
「従来のやり方にも長所はあります。それを理解した上で、方法論の1つとして統計を使えることを強みにしたかったのです」(同氏)
ICHガイドラインの中で、原薬部分はICH-Q11に規定されている。施行は2012年。そこで推奨されている考え方を取り入れるべく、社内では統計を利用する準備が進んでいた。村瀬氏はすでに一部で導入していたJMPを使い始めてみることにした。
JMPの活用をスタート
村瀬氏は、「データを入れるとアウトプットが出てくるという簡単な操作方法に、これは使いやすいなと感じました。導き出されたモデルを基に作成された等高線プロファイルは、まさに製造の操作範囲における品質への影響を視覚的に映し出しており、これを使えば頑健性の高いプロセスを構築することが容易になると直感的に感じました。そして、もっと中身を理解できるようになりたいと思い、統計に関する知識を養いながらJMPの各種機能を覚えたことで、目的に応じて適切な実験計画法を活用し効率的なデータ取得ができるようになりました」と話す。
原料が中間体を経て原薬になる際に、反応で生成した不純物が残留することがある。その発生を抑制するために、実験計画法は役に立つ。試薬量や反応温度などのパラメータの交互作用を含むモデルを作成。等高線プロファイルを活用し、不純物を目標値以下に抑えられる領域を探索し、DSに規定する。最適なDSは、頑健性の高い生産プロセスそのものだ。
異なる専門分野の技術者との意思疎通面でも役に立つことが予想される。村瀬氏は、「原薬を開発するのは化学者ですが、実際に生産するのは技術者です。どちらも豊富な知識と経験を持つ人材ですが、専門分野は異なります。そこに、統計という言語を噛ませられることも大きな魅力です。お互いが化学と工学の知識をかみ砕いて何とか通じ合おうとするより、JMPで作ったグラフを見ながら話せばすとんと腹落ちすると思います」と話す。
原薬の製法開発において、ラボでは小さな反応容器で実験を行う。そこで良好な結果を得られれば、巨大な反応釜で商業生産を行うことになる。実験室レベルの反応容器からスケールアップすることで撹拌効率は変わる。そのため、結晶化工程においては原薬の粒子径を思いどおりに生産できないことがある。こうしたケースに対し、ラボで取得したデータを多変量解析し、撹拌効率とその他の因子との交互作用を抽出。撹拌効率の影響を限りなく排除した製造条件を選択することで、理想の粒子径を維持することに成功した。
研究職に統計的な考え方を
非臨床分野の統計教育とコンサルテーションを担当する本田 主税氏は、「統計的なものの見方は、研究職全員にとって大切です。実験結果が思いどおりであれば研究者は喜ぶものですが、冷静にその実験が正しく行われたものなのかを検証しなければなりません。そこに、統計が必要になってきます。試験計画がまずければ、その結果は使いものにならない場合もあります。それだけ実験計画は研究にとって重要なのです」と話す。
研究者が仲間に紹介することで、社内のJMPユーザーは着々と増えている。ここ数年、定期的にデータ解析の勉強会が開かれるようになった。研究者が自発的に集まり、直近の成果を披露し合うほか、JMPの基本操作を教え合ったりすることもあるという。
「私の見ている部署では、たとえば個体差のある生物実験をする部門があります。こうした部門では、より統計的なものの見方が求められます。計画で制御できる場合と、できない場合があり、それによって解析手法は異なってきます。幸いなことに、JMPはバージョンアップのたびに魅力的な手法が増え、データの性質に合わせた柔軟な解析ができるようになります。私たちは、各自の研究領域の専門性に加え、最新の統計を使いこなす、強い研究者集団を目指します」(同氏)
※ 本事例に記載の内容は2017年4月時点のものです