「JMPは、
『研究力を高めてくれる強力なツール』
といえるでしょう」
富山大学 薬学部 客員教授
大貫 義則氏
課題 | 医薬品開発においてQuality by Design ( QbD )の概念が浸透するなか、製剤設計において、製造条件(因子)と製剤特性(品質)の因果関係を科学的根拠に基づいて深く理解することが求められるようになってきた。 |
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ソリューション | 「決定的スクリーニング計画」や「Lasso回帰」といった新しい多変量解析手法のメリットを理解し、研究に取り入れた。 |
結果 | これらの手法を用いることにより、QbDに基づく製剤研究を実践できるだけでなく、自身の製剤研究の独自性が高まり、さらに研究の質を上げることができた。 |
製剤とは、薬(有効成分)に添加剤を配合して、錠剤、カプセル剤、貼り薬など、患者が扱いやすい形状に加工されたものをいう。例えば、錠剤を製造する場合、混合、造粒、乾燥、打錠など数多くの製造工程があり、それら工程に係る膨大な数の因子は、様々な製剤物性(一定時間で薬が溶けることなど)に複雑な影響を与えている。そのため、製剤設計を行う上での難しさは、膨大な数の因子から、製剤特性に影響を与える因子を見つけ出し、それらの条件を最適化するところにある。
富山大学薬学部製剤設計学講座では、医薬品生産で長い歴史を持つ富山県において、この課題にJMPを活用して取り組んでいる。この講座を担当する富山大学薬学部客員教授 大貫 義則氏は、「最近、製剤設計手法に大きなパラダイムシフトが起きていて、そこにJMPが活用されるシーンが増えてきました」と述べる。
「Quality by Design(QbD)」とは、医薬品開発で導入が進む新たな製剤設計手法についての概念である。従来の製剤設計手法では、製剤の品質は最終的な確認試験で保証されてきたが、QbDに基づく製剤設計では製造条件(因子)と製剤特性(品質)の因果関係を科学的根拠に基づいて深く理解し、最終的な確認試験に頼ることなく良質な製剤が製造できる最適な製造方法の構築を目標としている。すなわち、設計段階で製剤品質の作り込みを行うのがQbDの概念である。
「JMPは、
といえるでしょう」
富山大学 薬学部 客員教授
大貫 義則氏
「QbDに基づく製剤設計では、従来、研究者の頭の中だけにあった製造条件と製剤特性との複雑な因果関係を可視化して第三者に理解してもらうことが特に重要になります」と大貫氏。今までブラックボックスであったところを数値化して第三者に示すことが、これからの製剤設計に求められるなかで、多変量解析(ここでは、応答と複数の因子との関連性を探る統計解析手法を示す)のスキルはますます重要になってきていると同氏は指摘する。
このような多変量データの解析で、大貫氏の研究室ではJMPを活用している。普段の研究では重回帰分析やPLS回帰などの多変量解析を使う機会が多いが、最近では、研究の独自性を出すために、新しい解析手法の適用にも積極的に取り組んでいる。1つの例として、実験計画法(DOE)の新しい計画作成手法である「決定的スクリーニング計画」により作成した実験データの解析がある。
「JMPに搭載されている『決定的スクリーニング計画』では、少ない実験回数で、数多くの因子の中から影響因子を見つけるスクリーニング実験を行えます。通常、スクリーニング実験で考慮する主効果や2次交互作用だけでなく、2乗項の効果も特定できる方法になっているので、より効率的、効果的な手法だと感じています」と大貫氏。
この「決定的スクリーニング計画」を当時検討していた通常の錠剤の処方設計に適用し、その有用性を実感した大貫氏は、次にこれを「ミニタブレット」という特殊錠剤の設計にも応用することにした。「ミニタブレット」とは、直径2~3mmの錠剤(通常の錠剤の直径は8mm程度)で、小児用として有望視されている。低年齢の子どもは、成長によって体重が変わりやすいので、その変化にあわせて投与量を厳密に調整しなければならない。その点、「ミニタブレット」では数を増減して用量を簡単に調整できるし、形状が小さいので子どもにも飲みやすいというメリットがある。そのため、新しい小児製剤として注目されている。
だが、新しい製剤であるため、製造方法についてはまだ不明な点が数多くある。良質の「ミニタブレット」を作るためにどういう因子が影響しているのかを研究する過程で、どの因子が従来の錠剤と同じ影響を与え、どの因子が異なる影響を与えるのか、大貫氏はそれをJMPの「決定的スクリーニング計画」を用いて詳細に評価した。
「少ない実験数で影響因子が見つけられるだけではなく、スクリーニング実験の段階で応答曲面を作成して最適化検討もできるところに『決定的スクリーニング計画』の便利さを感じました。JMPでは応答曲面モデルに対し、因子と特性の関係を三次元のグラフィカルな曲面で表すことが可能であるため、最適な条件を決定するのに役立てています」と大貫氏。
同氏の別の研究では、JMP Proに搭載されているLasso回帰や弾性ネット(Elastic Net) といった新しい多変量解析手法も用いられた。さまざまな種類の賦形剤(錠剤の添加剤)に対して、10種類ほどの粉体物性を測定し、その賦形剤から作成した錠剤物性(崩壊時間、硬度など)との関連性を調べる研究が計画された。しかし、粉体物性間には強い相関があるものが多く、重回帰分析を行うと多重共線性が発生する。そこで、Lasso回帰や弾性ネットを使って解析を行うことにより、結果として粉体物性と錠剤物性の関係を深く理解することができた。
ところで、QbDという概念が中心となりつつある現在、同氏は製剤研究者が直面する課題について次のように語った。「製剤研究者の多くが、多変量のデータを扱うことにあまり慣れていない現状があります。まだ多くの場合、1つの因子の条件だけを変化させて、他は固定した状態で実験を行い、評価したい因子と特性間の因果関係が調べられています。でも現実的には、1因子ずつ変化させていくのは非常に時間がかかるし、膨大な実験数が必要になるのです」
多変量解析の重要性が高まってきていることを製剤研究者の多くが実感しつつあるものの、実際に試してみると難しく、なかなか思うように進めることができないという状況があるようだ。この点について大貫氏は、「JMPはマウス操作だけで簡単に解析ができるので、そのハードルを大きく下げられます。やりたい解析方法は大抵JMPに入っているので、JMPさえ使えれば、データ解析のスキルはかなりのところまで到達できます。そういう意味でJMPは『研究力を高めてくれる強力なツール』といえるでしょう」と述べた。
製剤研究の最先端で挑戦を続ける大貫氏は、自身の今後の研究について次のように語った。「自分の製剤研究の中では、様々な多変量データの解析を使用し続けていきたいと考えています。今まで使ったことがない解析手法がまだ沢山あるので、できるだけ多くのJMPの機能を利用してみたいと考えています。具体的には、時系列データはまだ解析したことがないので、自分の研究に取り入れてその手法を習得したいです。さらに、研究成果は社会に向けて積極的に発信し、自分自身がそうした手法の恩恵を受けるだけでなく、その有用性をより多くの人に伝えていきたいと考えています。多変量解析を使うことで、実験結果の理解が深まったり、考察の説得力が増したりするので、研究の質が良くなるのは間違いないと思います。自分自身が更なる研鑽を積むとともに、多変量解析を使える製剤研究者を1人でも多く増やしたいと思っています」
多変量解析を扱うスキルが必要とされる現在の製剤研究において、実験を効率化して理解と洞察に多くの時間を割けるようになれば、そこから研究の新たな広がりが見えてくる。大貫氏をはじめとする、多変量解析を駆使できる研究者がこれから続々と増えていくことで、さらなる研究の進展と成果へとつながっていくのかもしれない。