最適配合で組み合わせた製剤
(左)無添加区 (右)0.8%UNet XD-21添加区
※90℃で充填し、一晩室温で静置後の様子
素材を追加することで、食品が沈殿せずにバランスよく分散している様子
課題 | 素材の開発に職人的なアプローチと経験則を軸にトライ&エラーを繰り返し、食品製造工程に最適な素材を提案していた。しかし、それを人が食べたときにどのように感じるのか。大切なのはその部分であり、そこまで踏み込んで、定量的かつ定性的にその効果を証明したいというニーズの高まりがあった。 |
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ソリューション | 素材には単体でもさまざまな効果があるが、それらを組み合わせると足し算では考えられない相乗効果を得られる。複数の素材を組み合わることで創られた食感を、JMPで導き出すことができると考えた。 |
結果 | 官能評価のベースとなる評価系を確立し、分析の土台を整えた。分析の価値が社内に根付き、実験計画法を用いた開発により、その開発効率を大幅に高めることに成功した。 |
ユニテックフーズ株式会社(以下、ユニテックフーズ)は、安心・安全の食品素材を提供し、"豊かな食文化の創造"に貢献する食品メーカーだ。増粘多糖類と呼ばれる自然由来の高分子に強く、数百に及ぶ素材を取り扱う。主に海外の食品素材メーカーから導入し、最終的な食品を作る工程へと製品を送り届けている。
近年力を入れているのは白キクラゲのエキスを抽出して粉末にした「トレメルガム」。これは自社独自素材の多糖類で、保水性が高いことが特徴だ。トレメルガムは冷凍食品に配合すると解凍した後に食品から水が染み出す現象を抑制することができる。しかもそれ自身は低粘度であるため、食べたときに違和感がなく、本来の食感を保つことができる。
技術開発部 課長 戸田 拓士氏は、「白キクラゲは、中国で高級食材としても知られ、漢方薬でもあります。楊貴妃が好んで食べていたと伝えられていますが、保水性が美容に役立ったのかもしれませんね」と話す。
同社は、さまざまな素材を組み合わせて、人がおいしく感じる 「食感」を創り出している。たとえば、パン生地にトレメルガムを加えれば、きめ細かな良質のパンになる。実際に、穴の細かさは、観察するだけでわかる。しかし、それを人が食べたときにどのように感じるのか。大切なのはその部分であり、そこまで踏み込んで、定量的かつ定性的にその効果を証明することで、トレメルガムの魅力は増す。さらに、どの程度配合すれば理想的な食感を得られるのか、といった情報も欲しい。そうしたニーズの高まりが、同社にJMPの採用を決断させた。
戸田氏は、「以前はExcelでできる範囲の分析しか行っておらず、 職人的なアプローチで配合を決めていました。AとBを組み合わせればどの程度の粘度を出せるのか、といった経験則を軸にトライ& エラーを繰り返し、食品製造工程に最適な素材を提案していたのです」と話す。
人海戦術を採れば、このやり方でも十分に要求を充たせる素材を提案できるかもしれない。しかし、同社はまだ若い企業で、数少ない優秀な技術者が日々奮闘しても、案件数に追いつかない状況になってきた。 それを解決する有効な手段として、同社は実験計画法に目をつけた。 実験計画法のアプローチを適用することで、トライの数を減らすことができ、最適な配合割合を迅速に特定することに期待したのだ。
技術開発部のメンバーに、統計を深く学んだ経験のある人はいなかった。技術開発部 課長代理 浅野 桃子氏は、「実は、実験計画法の教科書を買って読んだことはあるのです。しかし、挫折してしまいまして……。“やってみる”ところまで行けないのです。頭では理解できても、実行できない。そうした悩みについて、当時の上司に相談したところ、JMPを勧められたのです」と明かす。
こうして、JMPに挑戦してみることにした。第一印象から、クリック の連続で分析を進めていける使い勝手の良さに好感を持ったという。 ユーザーインタフェースもわかりやすい。JMPの体験セミナーにも参加し、2017年4月に導入を決めた。
浅野氏は、「私たちが正しく使うことができれば、JMPで大きな成果を出せると感じました」と話す。「素材には単体でもさまざまな効 果があるのですが、それらを組み合わせると足し算では考えられない相乗効果を得られます。複数の素材を組み合わせることで創られた食感を、JMPで導き出すことができると考えたのです」。
導入後、まずは過去のデータをJMPに取り込んで分析にチャレンジ してみたが、そこで大きな気づきを得た。「分析に使えるのは、正しく取得したデータでなければならない」という教訓だ。レシピは確かに存在するが、なぜその配合が有効なのかがデータを紐解いてもわからない。そうなると、レシピを再評価することができないのだ。
ほぼゼロからのスタートになったが、当初からデータの大切さに気づいたことで、きれいなデータを残す文化が育った。成果の出る分析も増えるとともに、JMPは徐々にチームへ浸透し、いまではJMPがなければ仕事にならないという人も出てきた。以下に、主な成果について見ていこう:
あるクライアントから、たとえばコーンポタージュのように、固形物が浮かんでいる飲料の開発にあたって提案を求められた。要求は、「製造工程の中では粘度があり、飲むときには過度な粘度を感じないようにするブレンド製剤」だ。あらかじめ見込み価格は提示さ れており、食品表示におけるNG項目も決定されている。
現時点において、その条件を充たすために組み合わせる素材を選定 するのは、熟練した人の役割だ。素材が多すぎると工程が煩雑にな り、少なすぎると相乗効果を期待できない。今回は、数百に及ぶ素材の中から、3つの素材を選んだ。それらを効率的かつ論理的に組み合わせ、最小の実験回数で最適な配合を得るために実験計画法を適用。見事に最適な配合領域を見つけることができた。
結果は良好で、そのブレンド製剤は無事に採用されることになった。その後は食品メーカーの製造工程において調整され、量産フェーズへと移行する。その際にも、科学的知見と論理的な検証結果に基づき、最適なアドバイスを提供できるようになった。
食感を評価することは難しい。表現だけで、日本語には445個の言葉がある。そのうち約70%が擬音語・擬態語だ。ニュアンスを含む言葉になるが、評価系がなければ分析することができない。そこで同社は、統計的手法で、実際に食べて感じた印象を表現する官能評価系を確立した。これが社内の評価基準となり、分析に使用できる正しいデータを取得できるようになった。さらにこのデータをJMPで分析することで、食感を軸に製品をマッピングし、食感の特徴を視覚的に把握できるようになった。これにより、素材の配合を組み立てるにあたって、レシピごとの食感を「共通認識」として持つことができるようになった。
たとえば、クライアントから「もう少しかたいゼリーを作りたい」と表現されても、人によって硬さの印象は異なる。そうした際にはま ず、ぷるぷる、もっちり、などの表現の中から妥当性を検証し、マッピングの骨組みを作る。ゼリーの場合は、ゲル状部分の崩れ方で風味の出方が変わるため、「かたい」の他にも、弾力がある、口どけのよい、などのいくつかの用語を使用することで、食感を様々な角度 から評価し、より具体的に特徴付けられるようになった(下図)。 ゼリーのほかにも、低糖度ジャムや食パンなど、各食品への適用を進めている。
食感の評価はヒトの感覚だけでなく、分析機器による物性測定も重 要である。同社では保有する数々の分析機器を用いて、客観的な数値データの取得を行っている。これと官能評価データをJMPで分析することで、相関関係の解明にも取り組んでいる。
ペクチンは柑橘類を由来とする多糖類で、カルシウムと反応してゲルを作る機能がある。同社の主力素材の1つで、約30種類の素材を海外のメーカーから輸入して販売している。自社に製造ノウハウがないため、 個々のペクチンについて基礎的な知見が足りない部分があった。 構造や特性を知り、食品に使用した時の効果を明らかにできれば、 顧客に対してより適切なペクチンを提案することができる。
解決法は、海外から届いたペクチンを自社で検証してみることだった。 ペクチンとカルシウム濃度、pH(酸性/アルカリ性を示す尺度。 一般に、0 ~ 14の数値を取り、7が中性となる)変化による粘度挙動のモデルの当てはめや、機器分析データのPLS回帰によるエステル化度の推定(エステル化度はペクチンのカルシウム反応性を決定する因子)を実施した。
ペクチンは、ジャムだけでなく、ドリンクヨーグルトなどさまざまな食品に使用されている。ペクチンごとにその挙動が明らかになったこ とで、それぞれの食品に適切なペクチンを構造から推定される特性によってより効率的に選定できるようになった。
「素材には単体でもさまざまな効果があるのですが、それらを組み合わせると足し算では考えられない相乗効果を得られます。複数の素材を組み合わることで創られた食感を、JMPで導き出すことができると考えたのです」
浅野 桃子 氏
ユニテックフーズ株式会社 技術開発部 課長代理
戸田氏は、「JMPは働き方改革にもつながるツールです。少ない人数 で、ムダなく試験できますから。将来は、職人技による場当たり的な組み合わせプランでなく、JMPで瞬間的に当たりをつけて、最後の細かな部分で職人が詰めていくようなプロセスを実現したいと考えています」と話す。
実際に、技術開発部 樋口 侑夏氏は、そのテーマに取り組んでいる。 「顧客の要求を充たせそうな10程度の素材から、現実的な2 ~ 4素材を特定するような用途に使えるはずです。いまは試験段階で、少ない素材を使って求められた食感を出せる組み合わせを導き出せるかどうかを検証していますが、理論的には実現可能だと考えてい ます」。
さらに同社では、JMPをマーケティングにも利用したいと考えている。すでにイベントや展示会に出展した際のアンケート結果をいくつかJMPで分析し、関連各部にフィードバックしている。
浅野氏は、「これまでは、Excelに結果を打ち込んで、“Yesと答えた 人が8割でした”と円グラフを作っていました。JMPなら、簡単にさまざまな角度から視覚的に分析することができます。若い会社なので、部門の壁は全くありません。私たちが使い方を提案することで、社内でも啓発活動に取り組んでいきます」と話している。
左から、樋口 侑夏氏、浅野 桃子氏、戸田 拓士氏