医療統計コラム
File 3. 検査結果と有病率の関係
世界的な感染症の流行を定期的に耳にしますが、国内で感染が拡大するようなケースでは、自身や周囲の方の感染が懸念されると思います。場合によっては感染の有無を確認するためにスクリーニング検査を希望することもあるかもしれません。しかしながら、スクリーニング検査の診断結果は必ずしも正しいとは限らないようです。以下では検査の結果と検査の精度及び有病者の割合(有病率)との関係について探ります。
陽性予測値と有病率の関係
はじめに、検査で陽性と診断されたときに実際に罹患している確率(陽性予測値)について考えます。陽性予測値は、検査の精度(感度、特異度)と有病率に左右されることが知られています。実際、陽性予測値と有病率の関係は以下のようにグラフ化されます。
上のグラフをみると、検査の精度がそれほど高くない(特異度70%)とき、有病率の低い集団でスクリーニングを行うと、陽性予測値は低くなることがわかります。一方で有病率の高い集団でスクリーニングを行うと、陽性予測値は改善します。
また検査の精度が高い(特異度99.9%)ときでも、有病率の低い集団(たとえば0.1%)でスクリーニングを行うと、陽性予測値はそれほど高くならない(約50%)ことがわかります。一方で有病率の高い集団(たとえば1%)でスクリーニングを行うと、陽性予測値は高くなる(約90%)ことがわかります。
陰性予測値と有病率の関係
次に、検査で陰性と診断されたときに実際に罹患していない確率(陰性予測値)について考えます。陰性予測値も検査の精度(感度、特異度)と有病率に左右されることが知られています。実際、陰性予測値と有病率の関係は以下のようにグラフ化されます。
上のグラフをみると、検査の精度がそれほど高くない(感度70%)とき、有病率の高い集団(たとえば30%)でスクリーニングを行うと、陰性予測値は100%から離れる(約85%)ことがわかります。一方で有病率の低い集団でスクリーニングを行うと、陰性予測値は100%に近づきます。
また検査の精度が高い(感度99.9%)とき、有病率が非常に高い場合を除くと、陰性予測値は100%に近い値をとることがわかります。
具体例
以上を踏まえ、具体例について考えます。はじめに、流行中の感染症に対して、精度の高い検査を利用できないようなケースを取り上げます。このような場合、有病率の低い集団に対して大規模なスクリーニングを行うと、偽陽性の判定が多くなって非効率的かもしれません。むしろ感染経路などから有病率を推定して、有病率の高い集団に対してスクリーニングを行うと効率的になりそうです。また、有病率の高い集団では偽陰性の判定が少なからず存在するため、陰性と診断された人も、一時的に外部から隔離して症状の経過を観察するのが合理的かもしれません。
次に、出生前検査などで精度の高い検査を利用できるようなケースについて考えます。このような場合でも、有病率が低いときは偽陽性の判定が十分に起こりえます。そのため年齢などの要因から推定される有病率を考慮にいれて、診断結果を解釈する必要があると言えそうです。
検査精度の指標
以下で、検査の結果と検査の精度及び有病率の関係の背景について調べます。まず、検査の精度を表す指標について振り返ります。罹患しているときに検査で陽性と診断される確率を感度、罹患していないときに検査で陰性と診断される確率を特異度といいます。条件付き確率を用いると、
感度=P(陽性|疾患あり)
特異度=P(陰性|疾患なし)
と表されます。下のモザイク図では、図を縦方向に見て、「疾患あり」の場合の「陽性」のセルの高さが感度に、「疾患なし」の場合の「陰性」のセルの高さが特異度にあたります。
また、検査で陽性と診断されたときに実際に罹患している確率を陽性予測値、検査で陰性と診断されたときに実際に罹患していない確率を陰性予測値というのでした。条件付き確率を用いると、
陽性予測値=P(疾患あり|陽性)
陰性予測値=p(疾患なし|陰性)
と表されます。先ほどのモザイク図では、図を横方向に見て、「陽性」の場合の「疾患あり」のセルの面積の割合が陽性予測値に、「陰性」の場合の「疾患なし」のセルの面積の割合が陰性予測値にあたります。
陽性予測値とベイズの定理
ここで陽性予測値の条件付き確率について調べます。陽性予測値の条件付き確率にベイズの定理を用いると、
となります。式を整備すると、
という関係式が得られます。この式は、陽性予測値が検査の精度(感度、特異度)だけでなく有病率に左右されることを表しています。また有病率が小さいときに、陽性予測値が特異度の影響を受けやすいことがわかります。ベイズ流の解釈では、事前確率が有病率にあたり、陽性という診断結果を受けて更新された事後確率が陽性予測値になります。
陰性予測値とベイズの定理
同様に、陰性予測値の条件付き確率に対してベイズの定理を用いて式を整備すると、
という関係式が得られます。この式は、陰性予測値が検査の精度(感度、特異度)だけでなく有病率に左右されることを表しています。また有病率が大きいときに、陰性予測値が感度の影響を受けやすいことがわかります。ベイズ流の解釈では、事前確率が1-有病率にあたり、陰性という診断結果を受けて更新された事後確率が陰性予測値になります。
計算式のグラフ化
最後に冒頭のグラフの作成方法を紹介します。データテーブルを開き、「有病率」と「陽性予測値」という列を作成します。計算式エディタパネルを開いて、「有病率」の関数として「陽性予測値」を定義します。[グラフ]>[グラフビルダー]を選択して、「有病率」を「X」ゾーンにドラッグし、「陽性予測値」を「Y」ゾーンにドラッグします。[計算式]をクリックすると、計算式エディタで定義した関数がグラフ上に表示されます。
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