安定性試験データの分析は、医薬品の有効期間を設定する際に使われているものです。3つの劣化データ分析モデルがあてはめられ、ICH(ICH Q1E 2003)に従って有効期間が推定されます。バッチのプールが可能かどうか判断する際、ICHガイドラインが一般的な基準として使用されます。特定の実行の詳細に関しては、Chow(2007、付録B)のSTAB macroとFDAのガイドラインを参照してください。
3種類の線形モデルは、次のとおりです。
モデルI
傾きと切片がバッチごとに別々
モデルII
傾きは共通だが、切片はバッチごとに別々
モデルIII
傾きも切片も共通
次のような手順によって、モデルが選択されます。
1. 上記の「モデルI」をあてはめます。時間効果・バッチ効果・交互作用効果の順でモデルに含め、タイプI平方和(逐次平方和)を計算します。タイプI平方和によって、傾きの同一性に対する検定を行います(この検定は、レポートでは「要因C」に対する検定として出力されます)。
– p値が0.25未満の場合、傾きはバッチ間で異なると判断します。そして、「モデルI」によって、有効期間を推定します。
– p値が0.25以上の場合、傾きはすべてのバッチで等しいと判断し、手順2に進みます。
2. 手順1で傾きはすべて同じであると判断した場合、次に、切片の同一性に対する検定を行います。先ほどと同様、モデルIIで得られたタイプI平方和を用いて検定します(この検定は、レポートでは「要因B」に対する検定として出力されます)。
– p値が0.25未満の場合、切片はバッチ間で異なると判断します。そして、上記の「モデルII」によって有効期間を推定します。
– p値が0.25以上の場合、切片はすべてのバッチで等しいと判断します。そして、上記の「モデルIII」によって有効期間を推定します。
なお、「傾きと切片が別々」である「モデルI」によって有効期間を推定する時に、JMPでは、各バッチの誤差平方和をプールしないことにご注意ください。バッチごとに別々に求められたそれぞれの誤差平方和によって、バッチごとに信頼区間を計算し、それらのなかで最初に仕様限界と交差している時点を、有効期間とします。
警告: 「劣化データ分析」レポートにおける残差プロットの下のモデルの番号付けは、必ずしも「安定性試験」レポートのモデルの順序に対応していません。デフォルトでは、「劣化データ分析」レポートにおける残差プロットの下にある「モデル1」はプールされた誤差平方和を使用しており、「安定性試験」レポートにおける交差時間の計算には使われません。「モデル2」は、「安定性試験」レポートのモデルIIと同じものです。「モデル3」は、「安定性試験」レポートのモデルIIIと同じものです。「モデル4」は、「安定性試験」レポートのモデルIと同じものです。また、「安定性試験」オプションを行う前後に他のモデルをあてはめた場合、上記のモデル番号の対応は成立しない可能性があります。
「Stability.jmp」サンプルデータを分析してみましょう。このテーブルには、4つのバッチの医薬品で測定した化学濃度が記録されています。濃度が95になった時点で、医薬品は有効ではないと判断します。このデータをもとに、新規の医薬品の有効期間を設定します。
安定性解析を実行するには、次の手順に従ってください。
1. [ヘルプ]>[サンプルデータライブラリ]を選択し、「Reliability」フォルダにある「Stability.jmp」を開きます。
2. [分析]>[信頼性分析/生存時間分析]>[劣化分析]を選択します。
3. [安定性試験]タブを選択します。
4. 「濃度(mg/Kg)」を選択し、[Y, 目的変数]をクリックします。
5. 「時間」を選択し、[時間]をクリックします。
6. 「バッチ番号」を選択し、[ラベル, システムID]をクリックします。
7. 「下側仕様限界」に「95」と入力します。
8. [OK]をクリックします。
図7.24 安定性試験のモデル
共通の傾きに対する検定は、p値が0.8043です。有意水準の0.25より大きい値であるため、この検定は棄却されません。そこで、傾きは等しいと判断します。
共通の切片に対する検定は、p値が0.0001より小さくなっています。有意水準の0.25より小さい値であるため、この検定は棄却され、切片がバッチ間で異なると判断します。
共通の傾きに対する検定は棄却されず、共通の切片に対する検定は棄却されたため、「切片」が「別々」で「傾き」が「共通」のモデルが妥当であろうと判断します。レポートではこのモデルが選択され、有効期間の推定値として23.475と表示されています。