安定性試験データの分析は、医薬品の有効期間を設定する際に使われているものです。3つの劣化データ分析モデルがあてはめられ、International Conference on Harmonisation(ICH)ガイドラインに従って有効期間が推定されます。有効期間の間、バッチのプールが可能かどうか判断する際、ICHガイドラインが一般的な基準として使用されます(ICH Q1E 2003)。計算の詳細に関しては、Chow(2007、付録B)のSTABマクロとFDAのガイドラインを参照してください。
「安定性試験」レポートは、3つの劣化モデルとその交差する最短時間を要約したものです。最良のモデルが選択され、重ね合わせプロットに表示されます。モデルは、複雑さの順にリストされます。
最初のモデルは、切片と傾きがバッチごとにすべて異なるモデルです。(後述の手順とモデルの比較では、これを完全モデルと言います)。なお、JMPでは、このモデルを有効期間の推定に用いるときに、各バッチの誤差平方和(MSE)はプールされません。JMPでは、バッチごとに別々に求められたそれぞれの誤差平方和によって、バッチごとに信頼区間を計算し、それらのなかで最初に仕様限界と交差している時点を、有効期間とします。2つの仕様限界が指定されている場合、交差する最短時間は95%両側信頼区間に基づいて計算されます。仕様限界が1つしか指定されていない場合、交差する最短時間は95%片側信頼区間に基づいています。
2番目のモデルは、切片はバッチごとに異なるが、傾きはすべてのバッチで同じモデルです。3番目のモデルは、すべてのバッチにおいて、切片も傾きも同じモデルです。この3番目のモデルは、一般的に、推定される有効期間が最も長くなります。
図7.24 「安定性試験」の要約
「安定性試験」レポートの「モデルの比較」では、上記した3つのモデルが有意性検定によって比較されています。凡例は各要因を示します。3つのモデルから最良なモデルを決めるのには、要因Cと要因Bのp値が考慮されています。要因は逆の順序でリストされており、これは手順の順序に対応しています。
ヒント: ICHガイドラインでは、適切なモデルを決定するために、有意水準0.25を用いることが提案されています。各要因のp値を、別の有意水準で検定することもありえます。ICHガイドラインとは別の基準でモデルを選択する場合は、「安定性試験」要約レポートの表にある「表示」列でのラジオボタンを用いてください。
要因E
全平方和から要因Dの平方和を引いた値です。要因Eの「平均平方」列の値は、要因Eの平方和を要因Eの自由度で割った値です。この値は、完全モデル(異なる切片と異なる傾き)におけるパラメータの個数です。
要因D
完全モデル(異なる切片と異なる傾き)の誤差平方和と誤差平均平方です。
要因C
共通の傾きに対する検定を指定します。これは、2番目のモデル(異なる切片と共通の傾き)と完全モデル(異なる切片と異なる傾き)を比較した検定です。
– p値が0.25未満の場合、傾きはバッチ間で異なると判断します。そう判断した場合、ここで手順を止めて、完全モデル(異なる切片と異なる傾き)によって有効期間を推定します。
– p値が0.25以上の場合、傾きはすべてのバッチで等しいと判断し、要因Bに対する検定を行います。
要因B
共通の切片に対する検定を指定します。これは、3番目のモデル(共通の切片と共通の傾き)と2番目のモデル(異なる切片と共通の傾き)を比較した検定です。
– p値が0.25未満の場合、切片はバッチ間で異なると判断します。そう判断した場合、2番目のモデル(異なる切片と共通の傾き)によって有効期間を推定します。
– p値が0.25以上の場合、切片はすべてのバッチで等しいと判断します。そして、3番目のモデル(共通の切片と共通の傾き)によって有効期間を推定します。
要因A
3番目のモデル(共通の切片と共通の傾き)と完全モデル(異なる切片と異なる傾き)を比較した検定を指定します。この検定は、最良なモデルを決めるためには用いません。
図7.25 安定性モデルの比較
「レポート」セクションには、[安定性試験]オプションであてはめられたモデルが含まれています。「安定性試験」オプションでは、以下の4つのモデルがあてはめられます。
• 誤差分散が共通であり、異なる切片と異なる傾きを持つモデル。このモデルは、MSE(誤差平均平方)はプールして求められています。(これは「要約」レポートにおける最初のモデルの代わりになりうるモデルです。)
• 異なる切片と共通の傾きを持つモデル。(これは「要約」レポートの2番目のモデルです。)
• 共通の切片と共通の傾きを持つモデル。(これは「要約」レポートの3番目のモデルです。)
• 誤差分散も異なり、異なる切片と異なる傾きを持つモデル。このモデルは、MSE(誤差平均平方)はプールせずに求められます。(これは「要約」レポートの最初のモデルです。)
注意: 「レポート」セクションには、[安定性試験]オプションであてはめられる4つのモデルに加えて、このオプションを実行する前に「劣化データ分析」プラットフォームであてはめられたモデルも含まれています。
「Stability.jmp」データテーブルのデータを使用して、新製品の有効期間データを設定するとします。このテーブルには、4つのバッチの医薬品で測定した化学濃度が記録されています。濃度が95になった時点で、医薬品は有効ではないと判断します。
安定性解析を実行するには、次の手順に従ってください。
1. [ヘルプ]>[サンプルデータライブラリ]を選択し、「Reliability」フォルダにある「Stability.jmp」を開きます。
2. [分析]>[信頼性分析/生存時間分析]>[劣化分析]を選択します。
3. [安定性試験]タブを選択します。
4. 「濃度(mg/Kg)」を選択し、[Y, 目的変数]をクリックします。
5. 「時間」を選択し、[時間]をクリックします。
6. 「バッチ番号」を選択し、[ラベル, システムID]をクリックします。
7. 「下側仕様限界」に「95」と入力します。
8. [OK]をクリックします。
図7.26 安定性試験のモデル
共通の傾きに対する検定は、p値が0.8043です。有意水準の0.25より大きい値であるため、この検定は棄却されません。そこで、傾きは等しいと判断します。
共通の切片に対する検定は、p値が0.0001より小さくなっています。有意水準の0.25より小さい値であるため、この検定は棄却され、切片がバッチ間で異なると判断します。
共通の傾きに対する検定は棄却されず、共通の切片に対する検定は棄却されたため、「切片」が「別々」で「傾き」が「共通」のモデルが妥当であろうと判断します。レポートではこのモデルが選択され、有効期間の推定値として23.475と表示されています。