本節で述べる加速破壊劣化モデルの例は、Escobar et al.(2003)の例を参考にしています。このデータテーブルには、接着剤の強度(単位はニュートン)に関する測定値が記録されています。この試験では、加速因子として温度が使われています。接着剤がはがれるまで製品に圧力を加え、強度を記録しました。通常の温度ではユニットが故障することは稀なので、加速因子でいくつかの水準を設定して試験しました。強度が50ニュートン以下の場合、故障とみなされます。摂氏35度の基準温度で260週間(5年間)経過後、強度が50ニュートンを下回る割合を推定します。
この例の分析には3つの段階があります。
• 最初の分析を行う
1. [ヘルプ]>[サンプルデータライブラリ]を選択し、「Reliability」フォルダにある「Adhesive Bond.jmp」を開きます。
2. [分析]>[信頼性分析/生存時間分析]>[破壊劣化]を選択します。
3. 「強さ」を選択し、[Y, 目的変数]をクリックします。
4. 「週数」を選択し、[時間]をクリックします。
5. 「温度」を選択し、[X]をクリックします。
温度は、この実験における加速因子です。
6. 「打ち切りの有無」を[打ち切り]に指定します。
[打ち切りの値]が「Right」(右側)になっていることを確認してください。
7. [OK]をクリックします。
図8.2 最初の劣化プロット
プラットフォームによってデフォルトのモデルが指定されます。デフォルトのモデルは、位置パラメータが時間の線形関数となっている正規分布です。
1. Y(「強さ」)の変換に[Log]を選択します。
2. 時間(「週数」)の変換に[平方根]を選択します。
3. 「経路の定義」においてμ = b0x + b1x*f(time)を選択します。
添え字の「x」は加速因子を表し、この例では「温度」です。
注: このモデルはすべてのパラメータにおいて線形です。
図8.3 モデルを表示したプロット
4. [レポートの生成]をクリックします。
図8.4 基本的なモデルのレポート
「温度」の3つの水準における傾きb1の推定値を見ると、温度が高いほど劣化が早く起こっていることがわかります。化学反応に左右される故障のメカニズムは、多くの場合、温度に関するArrheniusモデルを使うとうまくモデル化できます。そのため、ここで「温度」(摂氏)にArrhenius変換を適用したモデルをあてはめましょう。
5. 「経路の定義」にμ = b0 ± Exp(b1 + b2*Arrhenius(X))*f(time)を選択します。
注: このモデルはパラメータにおいて線形ではありません。
6. [摂氏]を選択して[OK]をクリックします。
図8.5 Arrhenius変換を行ったモデルを表示したプロット
7. [レポートの生成]をクリックします。
図8.6 Arrhenius変換を行った2番目のモデルを含んだレポート
Arrheniusモデルの方がAICcとBICの値が小さく、あてはまりが良いことがわかります(図8.6)。このモデルを使って分析を進めましょう。
この例では、接着の強度が50ニュートン以下なら故障とみなすということでした。摂氏35度という基準温度の環境で156週間(3年間)経つと、強度がどれぐらいになるかを確かめてみます。プロファイルの設定をこれらの値に変更します。各プロットで、横軸の下の赤字の値をクリックし、新しい値を入力します。
1. Arrheniusモデルの「劣化プロファイル」で、「週数」を156、「温度」を35とします。
図8.7 劣化プロファイル
以上の設定の「強さ」は62.25173、95%予測区間は50.0318~77.4563です。この温度と経過時間においてはあまり故障しないと考えられます。
2. 「交差時間分布プロファイル」で、「週数」を156、「温度」を35、そして「強さ」を50とします。
図8.8 交差時間分布プロファイル
摂氏35度で156週間使用したとき、「強さ」の値が50以下になる確率は0.024668です。95%信頼区間は0.00342~0.10995です。つまり、この設定において故障する確率は約2%です。
3. 「交差時間分位点プロファイル」で、「温度」を35、「確率」を0.02、そして「強さ」を50とします。
4. 「交差時間分位点プロファイル」の縦軸を、最大値がたいだい350になるように調整します。
図8.9 交差時間分位点プロファイル
摂氏35度で2%のユニットが故障する週数は、146.0928週と予測されます。95%信頼区間は89.1159~277.458です。