変量効果とは、「その水準が、母集団から無作為抽出された標本である」と見なされる効果です。モデルとしては、変量効果は平均が0の正規分布に従うと仮定されます。変量効果の分散は、分散成分と呼ばれることもあります。
この定義から考えると、どんな線形回帰モデルにも少なくとも1つの変量効果があると言えます。それは残差誤差(residual error)と呼ばれる効果です。この残差誤差の項は、通常、母集団において平均が0で正の分散(σ2)を持つ正規分布に従うと仮定されます。
典型的な変量効果モデルとして、分割実験モデルが挙げられます。この分割実験モデルは、誤差が複合対称の反復測定モデルと等価です。表4.2は、分割実験モデルの効果と、それに等価な反復測定モデルの効果をまとめたものです。これらのモデルでは、実験は2層に分かれています。まず、処理(処置)のうちのいくつかが、1次単位または被験者(個体)に施されます。次に、それらが2次単位に分割され(反復測定実験では、被験者ごとに複数回、測定が行われ)、2次単位に別の処理が施されます。このモデルでは、1次単位(または被験者)と、2次単位の効果が変量効果です。通常、2次単位の効果はモデル効果としては含めず、残差誤差として扱います。
分割実験モデル |
効果の種類 |
反復測定モデル |
---|---|---|
1次単位への処理 |
固定効果 |
被験者(個体)に対する処置 |
1次単位のID |
変量効果 |
被験者のID |
2次単位への処理 |
固定効果 |
被験者内の処置 |
2次単位のID |
変量効果 |
測定時点(反復測定のID) |
これらのモデルを、多層構造のモデル(layered model)として扱う計算方法があります。そこでは、モデルは次のような2つの異なる実験で構成されているとみなされます。
1. 1次単位への処理。区画または被験者を実験単位として、誤差が計算されます。
2. 2次単位への処理。個々の測定値を実験単位として、誤差が計算されます。この誤差は、残差誤差に相当します。
従来の古典的方法では、1次単位への処理(第1層における効果)を検定する際、次の方法のいずれかを用いていました。
• 1次単位(区画、被験者)ごとに平均を計算し、それをデータとして、1次単位に対する処理の一元配置分散分析を実行する。
• 1次単位に対する処理の平均平方を、1次単位IDの平均平方で割ったものを、F値として計算する。
• まず、2次単位(時点)ごとの測定値を複数の列で保持している形式でデータを準備する。そして、そのデータにMANOVAモデル(多変量分散分析モデル)をあてはめ、単変量の統計量を計算する。
これらの計算方法は、モデルが単純で、欠測値がない釣合い型データ(バランスが取れたデータ)でないと適用できません。また、変量効果を含むモデルには、分割実験モデルや反復測定モデルより複雑なモデルも存在します。固定効果と変量効果の両方を含むモデルは、混合モデルと呼ばれています。
釣合い型分割実験は、複数の層から構成される計画のなかで最もよく使われています。なお、反復測定モデルは、分割実験モデルと見なすこともできます。分割実験では、ある効果を1次単位に割り付けた後、その1次単位を分割し(反復測定の場合は、時点によって分割し)、分割された2次単位に他の効果を割り付けます。
サンプルデータのフォルダにある「Animals.jmp」データを見てみましょう(これは架空のデータです)。このデータは、キツネとコヨーテの餌の捕獲習性について、季節ごとの差を調べたものです。3頭ずつのキツネとコヨーテに印をつけ、それを1年間にわたって定期的に(季節ごとに)観察し、穴からどれぐらい離れて徘徊したかを平均距離(単位はマイルで、四捨五入した数値)として記録しました。モデルは次の要素で定義されます。
• 「距離(マイル)」。連続尺度の応答変数。
• 「種別」。固定効果。値は「キツネ」または「コヨーテ」。
• 「季節」。固定効果。値は「秋」、「冬」、「春」、「夏」。
• 「個体」。各個体を識別する番号。名義尺度。キツネとコヨーテで重複する番号1、2、3が使われています。
モデルには2つの層があります。
1. 上の層は個体間変動(被験者間変動)を扱う層です。キツネとコヨーテを水準とする因子(「種別」効果)について、個体間変動を考慮して検定します。
2. 下の層は、個体内変動(被験者内変動)を扱う層です。4つの季節を水準とする因子(「季節」効果)について、個体内変動を考慮して検定します。なお、個体内変動は、残差誤差として表されます。
「季節」効果に対しては、残差誤差をそのままF統計量の分母として使用することができます。一方、個体間変動は、残差誤差ではなく、「種別」から枝分かれしている「個体」の効果(個体[種別])によって把握しなければなりません。個体間の効果である「種別」のF統計量を計算するときは、残差誤差ではなく、この枝分かれ効果を分母にします。
メモ: JMP Proのユーザは、手法として[混合モデル]を使っても、以下と同じ分析を行えます。
このデータの分割実験モデルを指定するには、次の手順に従います。
1. [ヘルプ]>[サンプルデータライブラリ]を選択し、「Animals.jmp」を開きます。
2. [分析]>[モデルのあてはめ]を選択します。
3. 「距離(マイル)」を選択し、[Y]をクリックします。
4. 「種別」と「個体」を選択し、[追加]をクリックします。
5. 「列の選択」リストで、「種別」を選択します。
6. 「モデル効果の構成」リストで「個体」を選択します。
7. [枝分かれ]ボタンをクリックします。
「種別」から枝分かれしている「個体」の効果(個体[種別])がモデルに追加されます。
8. 枝分かれ効果の「個体[種別]」を選択します。
9. [属性]>[変量効果]を選択します。
これで、枝分かれ効果が「個体[種別]&変量効果」のように表示され、「種別」効果の誤差項として指定されたことになります。
10. 「列の選択」リストで「季節」を選択し、[追加]をクリックします。
[属性]ポップアップメニューを使って効果を変量効果として指定すると、ダイアログボックスの右上の方に、「方法」オプション([REML]と[EMS])が表示されます。デフォルトでは[REML]が選択されています。図4.19に指定が完了した起動ウィンドウを示します。
図4.19 「モデルのあてはめ」ダイアログボックス
11. [実行]をクリックします。
図4.20のようなレポートが作成されます。固定効果である「種別」と「季節」は、両方とも有意です。「REML法による分散成分推定値」レポートには、「個体」と残差誤差に対して、分散の推定値が表示されています。
図4.20 REML分析のレポート(一部)