McFadden(1974)が先駆者となって考案された選択モデルは、提示された選択肢の中から個人がどのような選択を行うかを推定する、強力な分析方法です。選択モデルは、「コンジョイントモデル」、「離散選択モデル」、「条件付きロジスティック回帰」とも呼ばれています。
選択実験では、製品やサービスの属性を組み合わせたもの(プロファイル)を回答者に提示して、どの組み合わせを回答者が好むかを尋ねます。選択実験では、いくつかのプロファイルを回答者に提示します(回答者に提示する、いくつかのプロファイルを集めたものを、「選択肢集合」と言います)。そして、回答者は、選択肢集合のなかから、最も好きなプロファイルを選択します。各回答者には、選択肢集合を提示して選択を行ってもらうことを、複数回、行ってもらうのが普通です。「選択モデル」プラットフォームは、このような選択実験のデータを分析します。
メモ: 選択実験は、「選択モデル計画」プラットフォームで作成できます。『実験計画(DOE)』の選択モデル計画を参照してください。
どの属性を重視するかは消費者によって異なるため、マーケットリサーチ関連の選択実験を分析する場合、消費者をセグメント(クラスター)に分けることが重要でしょう。セグメント化を行わないで製品やサービスを設計すると、実在しない「平均的な」消費者には好まれても、実在する消費者の嗜好を無視したものになるかもしれません。
選択モデルの背景については、Louviere et al.(2015)、Train(2009)、Rossi et al.(2005)を参照してください。
「選択モデル」プラットフォームは、条件付きロジスティック回帰によって、ある製品が好まれる確率を推定します。「選択モデル」は、通常のロジスティック回帰とは異なり、消費者の属性(たとえば性別や年齢)だけでなく、製品の属性も考慮したモデルになっています。たとえば自動車を例にすると、価格・乗車人数・カップホルダーの数・色・カーナビ・燃費・盗難防止システム・取り外し可能なシート・安全機能の数・保険料といった、自動車の属性を選択モデルは考慮します。
「選択モデル」プラットフォームでは、選択肢の集合のいずれも回答者が選択しない場合も扱うことができます。この方法では、回答者がどれも選択しない状況を、単一の属性(「選択なし」という属性)をもつ1つの製品を選んだとみなしてモデル化されます。この「選択なし」に対するパラメータ推定値は、モデルの仮定に応じてさまざまな解釈があります。また、「選択モデル」プラットフォームでは、各回答者に関する情報を求めることもできます。これは回答者の嗜好パターンをセグメント化するのに役立ちます。
「選択モデル」プラットフォームでは、モデルを推定する方法として、Firth(1993)によるバイアス修正を伴う最尤推定も行えます。この推定法は、通常の最尤法に比べ、推定や検定がより良い性質をもちます。また、バイアス修正を伴う最尤推定法を用いることにより、ロジスティックモデルなどで生じる分離(separation)の問題が改善できます。ロジスティック回帰における分離の問題については、Heinze and Schemper(2002)を参照してください。
メモ: 「選択モデル」プラットフォームは、順位やスコアに対するモデルや、枝分かれ階層の選択肢を含むモデルはサポートしていません。そういった分析には、SAS/ETSのPROC MDCを使用してください。
満足度調査では、製品やサービスの評判が良いのか悪いのかを知ることはできますが、製品の各属性に対する人々の好みは明らかになりません。製品開発において、数百、数千という細かい仕様をエンジニアは決めていきます。その際、選択実験に協力してくれる消費者を確保できるのであれば、選択実験が製品開発の手助けとなるでしょう。
調査やプロトタイプ作成が安価に行えるのであれば、製品開発の段階で、多数の属性や代替案を消費者に評価してもらえるでしょう。選択実験をシックスシグマプログラムで実施することにより、多くの消費者に求められるように製品を改善できるでしょう。選択実験でデータを収集し、そのデータを分析することにより消費者の選好を明らかにできるでしょう。
マーケットリサーチ(市場調査)では、選好のパターンによって、消費者(被験者)をグループに分けたい場合があります。しかし、通常のモデルで被験者ごとにパラメータ推定値を求めるには、被験者1人あたりに多くのデータが必要です。被験者1人あたりに多くのデータがあるなら、被験者IDを「応答データ」セクションで[By]変数に指定するか、被験者IDをモデル項として含めることができます。ただし、後者の方法は、被験者数が多いと計算が難しくなります。
[By]変数が指定できるほどのデータがない場合は、[被験者ごとの勾配を保存]オプションを使って被験者をクラスターに分け、セグメント化することができます。このオプションは、ヘッセ行列で尺度化した各パラメータの傾きを被験者ごとに平均し、新しいデータテーブルに表示します。例として、セグメント化の例を参照してください。傾きの値の詳細については、勾配を参照してください。
また、JMP Proでは、階層型Bayesモデルもサポートされています。階層型Bayesモデルでは、選択モデルにおける製品のパラメータ(このパラメータは「部分効用(part-worth)」とも呼ばれます)の推定値が被験者ごとに計算されます。その結果に対してクラスター分析などを用いれば、いくつかのセグメントに消費者を分類できます。