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公開日: 09/19/2023

「劣化分析」プラットフォームでの安定性試験

安定性試験データの分析は、医薬品の有効期間を設定する際に使われているものです。3つの劣化データ分析モデルがあてはめられ、International Conference on Harmonisation(ICH)ガイドラインに従って有効期間が推定されます。切片や傾きが異なるモデルがいいのか、等しいモデルがいいのかを判断するのに、ICHガイドラインで述べられている手順が使用されます(ICH Q1E 2003)。計算の詳細に関しては、Chow(2007、付録B)のSTABマクロとFDAのガイドラインを参照してください。

「安定性試験」レポートは、3つの劣化モデルとその交差する最短時間を要約したものです。最良のモデルが選択され、重ね合わせプロットに表示されます。モデルは、複雑さの順にリストされます。

最初のモデルは、切片と傾きがバッチごとにすべて異なるモデルです。(後述の手順とモデルの比較では、これを完全モデルと言います)。なお、JMPのデフォルトでは、このモデル(切片も傾きもバッチごとに異なるモデル)に基づいて有効期間の推定に用いるときに、各バッチの誤差平方和(MSE)はプールされません。JMPのデフォルトでは、バッチごとに別々に求められたそれぞれの誤差平方和によって、バッチごとに信頼区間を計算し、それらのなかで最初に仕様限界と交差している時点を、有効期間とします。2つの仕様限界が指定されている場合、交差する最短時間は95%両側信頼区間に基づいて計算されます。仕様限界が1つしか指定されていない場合、交差する最短時間は95%片側信頼区間に基づいています。

メモ: [切片および傾きが別々のモデルで誤差分散をプール]オプションが選択されている場合には、最初のモデル(切片も傾きもバッチごとに異なるモデル)でも、他のモデルと同じように、プールされた誤差平方和(MSE)を使用するモデルを使って、交差する最短時間を計算します。

2番目のモデルは、切片はバッチごとに異なるが、傾きはすべてのバッチで同じモデルです。3番目のモデルは、すべてのバッチにおいて、切片も傾きも同じモデルです。この3番目のモデルは、一般的に、推定される有効期間が最も長くなります。

図7.25 「安定性試験」レポート 

「安定性試験」レポート

「安定性試験」レポートの「モデルの比較」では、上記した3つのモデルが有意性検定によって比較されています。凡例は各要因を示します。3つのモデルから最良なモデルを決めるのには、要因Cと要因Bのp値が考慮されています。要因は逆の順序でリストされており、これは手順の順序に対応しています。

ヒント: ICHガイドラインでは、適切なモデルを決定するために、有意水準0.25を用いることが提案されています。各要因のp値を、別の有意水準で検定することもありえます。ICHガイドラインとは別の基準でモデルを選択する場合は、「安定性試験」要約レポートの表にある「表示」列でのラジオボタンを用いてください。

要因E

全平方和から要因Dの平方和を引いた値です。要因Eの「平均平方」列の値は、要因Eの平方和を要因Eの自由度で割った値です。この自由度は、完全モデル(異なる切片と異なる傾き)におけるパラメータの個数です。

要因D

完全モデル(異なる切片と異なる傾き)の誤差平方和と誤差平均平方です。

要因C

共通の傾きに対する検定を指定します。これは、2番目のモデル(異なる切片と共通の傾き)と完全モデル(異なる切片と異なる傾き)を比較した検定です。

p値が0.25未満の場合、傾きはバッチ間で異なると判断します。そう判断した場合、ここで手順を止めて、完全モデル(異なる切片と異なる傾き)によって有効期間を推定します。

p値が0.25以上の場合、傾きはすべてのバッチで等しいと判断し、要因Bに対する検定を行います。

要因B

共通の切片に対する検定を指定します。これは、3番目のモデル(共通の切片と共通の傾き)と2番目のモデル(異なる切片と共通の傾き)を比較した検定です。

p値が0.25未満の場合、切片はバッチ間で異なると判断します。そう判断した場合、2番目のモデル(異なる切片と共通の傾き)によって有効期間を推定します。

p値が0.25以上の場合、切片はすべてのバッチで等しいと判断します。そして、3番目のモデル(共通の切片と共通の傾き)によって有効期間を推定します。

要因A

3番目のモデル(共通の切片と共通の傾き)と完全モデル(異なる切片と異なる傾き)を比較した検定を指定します。この検定は、最良なモデルを決めるためには用いません。

図7.26 安定性モデルの比較 

安定性モデルの比較

「レポート」セクションには、[安定性試験]オプションであてはめられたモデルが含まれています。「安定性試験」オプションでは、以下の4つのモデルがあてはめられます。

誤差分散が共通であり、異なる切片と異なる傾きを持つモデル。このモデルは、MSE(誤差平均平方)はプールして求められています。([切片および傾きが別々のモデルで誤差分散をプール]オプションが選択されている場合、これは「安定性試験」レポートで最初のモデルです。)

異なる切片と共通の傾きを持つモデル。(これは「安定性試験」レポートで2番目のモデルです。)

共通の切片と共通の傾きを持つモデル。(これは「安定性試験」レポートで3番目のモデルです。)

誤差分散も異なり、異なる切片と異なる傾きを持つモデル。このモデルは、MSE(誤差平均平方)はプールせずに求められます。([切片および傾きが別々のモデルで誤差分散をプール]オプションが選択されていない場合、これは「安定性試験」レポートで最初のモデルです。)

注意: 「レポート」セクションには、[安定性試験]オプションであてはめられる4つのモデルに加えて、このオプションを実行する前に「劣化データ分析」プラットフォームであてはめられたモデルも含まれています。

「Stability.jmp」データテーブルのデータを使用して、新製品の有効期間データを設定するとします。このテーブルには、4つのバッチの医薬品で測定した化学濃度が記録されています。濃度が95になった時点で、医薬品は有効ではないと判断します。

安定性解析を実行するには、次の手順に従ってください。

1. [ヘルプ]>[サンプルデータフォルダ]を選択し、「Reliability」フォルダにある「Stability.jmp」を開きます。

2. [分析]>[信頼性/生存時間分析]>[劣化分析]を選択します。

3. [安定性試験]タブを選択します。

4. 「濃度(mg/Kg)」を選択し、[Y, 目的変数]をクリックします。

5. 「時間」を選択し、[時間]をクリックします。

6. 「バッチ番号」を選択し、[ラベル, システムID]をクリックします。

7. 「下側仕様限界」に「95」と入力します。

8. [OK]をクリックします。

図7.27 安定性試験のモデル 

安定性試験のモデル

共通の傾きに対する検定は、p値が0.8043です。有意水準の0.25より大きい値であるため、この検定は棄却されません。そこで、傾きは等しいと判断します。

共通の切片に対する検定は、p値が0.0001より小さくなっています。有意水準の0.25より小さい値であるため、この検定は棄却され、切片がバッチ間で異なると判断します。

共通の傾きに対する検定は棄却されず、共通の切片に対する検定は棄却されたため、「切片」が「別々」で「傾き」が「共通」のモデルが妥当であろうと判断します。レポートではこのモデルが選択され、有効期間の推定値として23.475と表示されています。

より詳細な情報が必要な場合や、質問があるときは、JMPユーザーコミュニティで答えを見つけましょう (community.jmp.com).