ここでは、「Uniformity Trial.jmp」サンプルデータをもとに、農場試験データに空間モデルをあてはめる例を取り上げます。8 × 8 に分けられた正方形の区画において、農業試験が行われました。この実験では、特定の処置は何も割り付けません。条件をほぼ一様にした農場で試験用作物を育て、応答変数(通常は収率)を測定します。このような試験の目的は、特定の処置に関する試験を実施する前に、農場の区画によって、どれぐらい結果がばらつくのかを把握しておくことです。(詳細については、Searle et al. 2006, p. 447を参照してください。)
今回の分析結果をもとに、16種類の処置を調べる試験を実施したいと考えています。そこで、この農場の実験データに、次のどのモデルを用いるべきかを決めたいと考えています。
• 農場を4つのブロック(データ内では「クォーター」と表記)に分割した乱塊法
• 農場を16個のブロック(データ内では「サブクォーター」と表記)に分割した乱塊法
• 誤差構造に空間的相関構造を想定したモデル
空間的相関構造は、[反復構造]タブで設定できます。また、「適合度検定量」レポートの統計量をもとに、モデルを比較できます。ここでは、最初に、空間的な変動性が存在してるかどうかを特定し、次に、モデルにナゲット効果を追加すべきかどうかを特定します。
そして、ナゲット効果を追加すべきかどうかを判断した後に、最良の空間的相関構造を特定します。最後に、乱塊法モデルをあてはめ、最良の空間モデルと比較します。この例では、最良のモデルを選択するのに、AICcやBICを使います。空間的相関構造に、空間モデルのナゲット効果などに関する詳細を説明しています。
ヒント: 以下の操作例では、異なった複数の空間モデルをあてはめていきます。指定方法の違いを確認するために、「モデルのあてはめ」起動ウィンドウを開いたままにしておいてください。
まず、空間的な変動性があるかどうかを調べます。そのために、誤差の共分散構造が空間的であるモデルをあてはめます。次に、独立で同一な誤差のモデルをあてはめます。そして、これら2つのモデルの尤度と比較します。空間モデルは、独立で同一な誤差のモデルを包括しています。独立で同一な誤差のモデルは、空間相関rが0である空間モデルです。つまり、尤度比検定によって、空間相関がゼロかどうかを検定できます。
まず、誤差の共分散構造が空間的になっているモデルをあてはめます。
1. [ヘルプ]>[サンプルデータライブラリ]を選択し、「Uniformity Trial.jmp」を開きます。
2. [分析]>[モデルのあてはめ]を選択します。
3. [ダイアログを開いたままにする]にチェックを入れ、次の例に移る際に起動ウィンドウに戻れるようにしておきます。
4. 「収率」を選択し、[Y]をクリックします。
5. 「手法」リストから[混合モデル]を選択します。
6. [反復構造]タブを選択します。
7. 「構造」リストから[空間的構造]を選択します。
8. 「種類」リストから[球型]を選択します。
9. 「行」と「列」を選択して[反復]をクリックします。
図8.32 「モデルのあてはめ」起動ウィンドウの[反復構造]タブでの指定
10. [実行]をクリックします。
図8.33 「混合モデルのあてはめ」レポート – 空間的球型構造
「混合モデルのあてはめ」レポートの「予測値と実測値のプロット」を見ると、予測値は1つの値しか取っていません。これは、切片だけの空間モデルがあてはめられたからです。「適合度統計量」レポートを見ると、「(‐2)*対数尤度」は227.68で、AICcは234.08になっています。
等方性の空間構造があてはめられたため、バリオグラムが表示されます。実験は8 × 8 のグリッドに配置されるため、近い距離の方が遠い距離よりも点のペアが多くなります。配置については、図8.37を参照してください。「バリオグラム」を見ると、およそ8.4までの距離には空間的球型構造が最適であることがわかります。なお、最後の距離における経験的バリオグラムの計算では、最も遠い対角方向に位置している、2つのペアしか使われていません。
「反復構造の共分散パラメータ推定値」レポートには、レンジの推定値(空間的球型 = 2.71)とシルの推定値(残差 = 3.26)が表示されています。バリオグラムを参照してください。
次に、同一で独立な誤差を仮定したモデルをあてはめましょう。
1. 「モデルのあてはめ」起動ウィンドウに戻ります。
2. [反復構造]タブを選択します。
3. 「構造」リストから、[残差]を選択します。
4. 「反復」効果リストから「行」と「列」を削除します。
削除しなかった場合は、「共分散構造として「残差」が選択されているので、[反復]や[個体]に指定された列を無視して分析を行います。」という警告が表示されます。
5. [実行]をクリックします。
同一で独立な誤差を仮定したモデルでは、「(‐2)*対数尤度」が254.22、AICcが258.41になっています。空間モデルでは、「(-1)*対数尤度」が227.68、AICcが234.08でした。AICcが小さいほうが良いモデルと判断できるので、空間モデルのほうが良いでしょう。
この例では、尤度比検定によって、空間相関が有意かどうかを判断できます。一般的に、尤度比検定を行うには、一方のモデルが、他方のモデルの部分モデルとなっていなければいけません。
通常、空間モデルは、尤度比検定ではなく、AICcやBICによって比較されます。AICcやBICの方が計算が楽であり、多くの空間モデルは別の空間モデルの部分モデルとはなっていないからです。
この例では、同一で独立な誤差のモデルは、空間モデルに包含されています。そのため、尤度比検定を行えます。同一で独立な誤差モデルは、空間相関rが0に等しい空間モデルです。つまり、尤度比検定によって、空間相関がゼロかどうかを検定できます。
この例では、尤度比検定の検定統計量は、254.22‐227.68=26.54です。この検定統計量をもとに自由度1のカイ2乗分布からp値を計算すると、p値 < 0.0001となり、「空間相関がゼロである」という帰無仮説は棄却されます。つまり、これらのデータには有意な空間的変動性が見られると結論付けることができます。
続いて、次のような空間的共分散構造の中から、データに最も良くあてはまるものを選択しましょう。
• ナゲット効果あり/なし(ナゲット効果は、同一地点におけるばらつきを表します)
• 等方性(空間相関が全方向で一緒)/異方性(空間相関が方向によって異なる)
• 共分散構造を表す関数(球型・Gauss・指数・べき乗)
1. 「モデルのあてはめ」起動ウィンドウに戻ります。
2. [反復構造]タブを選択します。
3. 「行」と「列」を選択して[反復]をクリックします。
4. 「構造」リストから[空間的構造(ナゲットあり)]を選択します。
5. 「種類」リストから[球型]を選択します。
6. [実行]をクリックします。
図8.34のような「混合モデルのあてはめ」レポートが表示されます。対数尤度はナゲットのない球型空間モデルのものと同じです。AICcは少し高くなっています(234.08に対して236.36)。「反復構造の共分散パラメータ推定値」レポートを見ると、「ナゲット」共分散パラメータ推定値はゼロになっています。現在のデータには、ナゲット効果が存在するという証拠は見当たりません。
図8.34 「混合モデルのあてはめ」レポート - ナゲット効果ありの球型空間的構造
7. 「バリオグラム」の赤い三角ボタンをクリックし、[空間的構造]>[球型]を選択します。
図8.35 「混合モデルのあてはめ」レポート - バリオグラム
2つのバリオグラムは、ほぼ同じです。これも、ナゲット効果が存在するという証拠がないことを示します。
8. 「モデルのあてはめ」起動ウィンドウに戻ります。
9. [反復構造]タブを選択します。
10. 異方性を選ぶために、「構造」リストから[空間的異方性]を選択します。
11. 「種類」リストから[球型]を選択します。
12. [実行]をクリックします。
図8.36のような「混合モデルのあてはめ」レポートが表示されます。AICcを見ると、等方性の球型モデルに比べて、異方性の球型モデルは良くないようです(AICcは234.08に対して240.54)。「反復構造の共分散パラメータ推定値」レポートを見ると、「行」の推定値(「空間的構造 球型 行」)と「列」(「空間的構造 球型 列」)の推定値は非常に近い値になっています。現在のデータには、行と列とで空間相関が異なることを示す証拠はありません。
図8.36 「混合モデルのあてはめ」レポート - 異方性球型の空間的構造
誤差の共分散構造としては、ナゲットなしの等方性空間構造が適切なようです。JMPで用意されているいくつかの空間的構造を比較するには、それらをあてはめてみて、AICcやBICで比較します。
1. 「モデルのあてはめ」起動ウィンドウに戻ります。
2. [反復構造]タブを選択します。
3. 「行」と「列」を選択して[反復]をクリックします。
4. 「構造」リストから、[空間的構造]を選択します。
5. 「種類」リストから[べき乗]を選択します。
6. [実行]をクリックします。
モデルのAICcとBICの値を確認してください。
7. 「モデルのあてはめ」起動ウィンドウに戻ります。
8. 「種類」リストから[指数]を選択します。
9. [実行]をクリックします。
モデルのAICcとBICの値を確認してください。
10. 「モデルのあてはめ」起動ウィンドウに戻ります。
11. 「種類」リストから[Gauss]を選択します。
12. [実行]をクリックします。
モデルのAICcとBICの値を確認してください。
そうして得られたAICcとBICを表8.2に示します。
構造 | 種類 | AICc | BIC |
---|---|---|---|
空間的構造 | 球型 | 234.08 | 240.16 |
残差 |
| 258.41 | 262.53 |
空間的構造(ナゲットあり) | 球型 | 236.36 | 244.31 |
空間的異方性 | 球型 | 240.54 | 248.50 |
空間的構造 | べき乗 | 240.24 | 246.32 |
空間的構造 | 指数 | 240.24 | 246.32 |
空間的構造 | Gauss | 238.37 | 244.44 |
最も良いモデル(AICc値が最小)は、[球型]の共分散構造を持った空間的構造モデルです。次に、当初の分析目的を果たすため、この空間モデルを、乱塊法モデルと比較します。
1. 「Uniformity Trial」データテーブルに戻ります。
2. 「Uniformity Trial」パネルで「グラフビルダー」スクリプトを実行します。
図8.37 試験場のブロック
このグラフは、実験に用いた試験場がどのように分割されているかを示しています。色によって分けられているブロックは、4つに分かれています。1つのブロックは、16区画あるので、16個の処理を割り付けるなら、試験は完備型乱塊法になります。番号によって分けられているブロックは、色によって分けられているブロックをさらに細かくしており、全部で16個のブロックになっています。この場合、1つのブロックには4区画しかないため、16個の処理を割り付けるのであれば試験は不完備型乱塊法になります。
完備型乱塊法モデルをあてはめるには、次の手順に従います。
1. 「モデルのあてはめ」起動ウィンドウに戻ります。
2. [反復構造]タブを選択します。
3. 「構造」リストから、[残差]を選択します。
4. 効果の「行」と「列」を削除します。
削除しなかった場合は、「共分散構造として「残差」が選択されているので、[反復]や[個体]に指定された列を無視して分析を行います。」という警告が表示されます。
5. [変量効果]タブをクリックします。
6. 「クォーター」を選択し、[追加]をクリックします。
7. [実行]をクリックします。
不完備型乱塊法モデルをあてはめるには、次の手順に従います。
1. 「モデルのあてはめ」起動ウィンドウに戻ります。
2. [変量効果]タブをクリックします。
3. 「クォーター」を選択し、[削除]をクリックします。
4. 「サブクォーター」を選択し、[追加]をクリックします。
5. [実行]をクリックします。
次のリストは、空間モデルと乱塊法モデルのAICcとBICを示します。AICcやBICで見る限り、共分散構造を空間的球型構造としたモデルが、最も良いモデルになっています。この結果は、この試験場で得られたデータを統計分析するときには、空間モデルが良いことを示唆しています。
• 球型モデル(空間的構造の種類の決定)
– AICc: 234.08
– BICc: 240.16
• 完備型乱塊法モデル
– AICc: 259.90
– BICc: 265.97
• 不完備型乱塊法モデル
– AICc: 248.77
– BICc: 254.85