データの行が増えると(nが大きくなると)、検定の計算で使われる標準誤差は小さくなっていきます。その結果、統計的には有意であっても、実際に観測された差がとても小さくて、実質的には意味がない場合があります。そこで、「応答のスクリーニング」では、「差がある」と判断する差の大きさを指定して、それに基づく検定を行えます。固有技術や実用において意味がある差は、実質的な差(practical difference)と呼ばれます。実質的な差に関する検定では、差がゼロかどうかではなく、実質的な大きさを差が上回っているかどうかが検定されます。そのため、実質的に意味がある結論だけを取り出し、「差がゼロである」という帰無仮説に対する検定では有意だけれども無意味な結果を調べる手間が省けます。
同等性の検定は、応答平均が実質的に同等かどうかを判断します。この検定では、「実質的な差がある」ということを帰無仮説とします。
平均の比較に関するデータテーブルには、実質的な差に対する検定と、実質的な同等性に対する検定の結果が含まれています。各行の結果は、カテゴリカルな因子の水準の各ペアにおいて応答を比較したものです。結果は色分けされており、有意性が分かりやすくなっています。実質的な差の指定方法については、実質的な差を参照してください。例については、実質的な差や実質的な同等性に対する検定の例を参照してください。
図22.7 平均の比較に関するデータテーブル
平均の比較に関するデータテーブルには、相対的な実質的差と、その対数価値との関係をプロットする「PracticalLogWorth by Relative Practical Difference」というスクリプトもあります。この相対的な実質的差(relative practical difference)は、観測された差を、実質的な差で割った値として定義されています。
Y
連続尺度の応答変数。
X
カテゴリカルな説明変数。
水準i
カテゴリカルなX変数の水準。
水準j
カテゴリカルなX変数のLeveliと比較されるもう1つの水準。
差
平均の差に対する推定値。[ロバスト]オプションが選択されている場合、平均のロバスト推定値が使用されます。
差の標準誤差
平均の差に対する標準誤差。[ロバスト]オプションが選択されている場合は、ロバストな推定値が使用されます。
ゼロ差のp値
ペアごとの比較を行う、Studentのt検定における通常のp値。[ロバスト]オプションが選択されている場合は、ロバスト推定に基づくt検定が行われます。有意水準5%で有意なものが強調表示されます。
実質的な差
実質的な意味があると判断される、平均の差。Y変数の列に[仕様限界]列プロパティが指定されている場合、実質的な差(Practical Difference)は、その指定されている仕様限界の範囲に「実質的な差の割合」を掛けたものとされます。「実質的な差の割合」が指定されていない場合、仕様限界の範囲に0.10を掛けたものとされます。
Y変数の列に[仕様限界]列プロパティが指定されていない場合、まず、標準偏差の推定値が四分位範囲(IQR)から計算されます。この推定値はで求められます。そして、実質的な差は、に「実質的な差の割合」を掛けたものとされます。「実質的な差の割合」が指定されていない場合、に0.10を掛けたものとされます。
実質的な差のp値
水準iと水準jとの間における平均の差が、「実質的な差」を超えているかどうかの検定のp値。p値が小さい場合は、差の絶対値が、実質的な差を上回っていることを示唆します。この場合、水準iと水準jとの間には、実質的に意味のある差以上の違いがあると結論できます。
実質的な同等性のp値
TOST法(Two One-Sided Tests; 片側検定を2回行う方法)を使って、平均の実質的な同等性が検定されます(Schuirmann, 1987)。「実質的な差」が、実質的に同等とみなす差の最大値を意味します。「真の差は、実質的な差を上回る」と、「真の差は、実質的な差の符号を逆にしたものを下回る」という帰無仮説に対して、それぞれ片側t検定が実行されます。これら2つの片側検定が両方とも棄却されたら、平均の差の絶対値が、実質的な差の範囲内に収まっていることを意味します。したがって、その場合、それら2群は実質的に同等とみなされます。
「実質的同等性のp値」は、2つの片側t検定のp値の大きい方の値です。「実質的な同等性のp値」が小さい場合、水準iと水準jの平均は実質的に同等であることを示唆します。
実質的な差の判定
実質的な差に対する検定と、実質的な同等性の検定に対する結論。色分けして表示されるため、有意差の結果を簡単に見分けることができます。
– 「実質的な差あり」(ピンク): 差の絶対値が、実質的な差より有意に大きいことを示します。
– 「実質的に同等」(緑): 差の絶対値が、実質的な差の範囲に有意に収まっていることを示します。
– 「結論できない」(グレー): 実質的な差に関しても、実質的な同等性に関しても、いずれも有意でないことを示します。