完全にランダム化した計画を実行するのは、現実的ではない場合があります。実験を計画する際、ランダム化において制約となるようなロジスティクス上の条件や物理的条件を考慮する必要があります。この節では、やや特殊な無作為割り付け(ランダム化)を伴う実験計画を説明します。そのような実験計画には、乱塊法や分割法があります。
乱塊法では、ブロックごとに実験をグループ分けします。その際、ブロックは、母集団から無作為抽出したものとみなされます。また、異なるブロックでは状態は異っても構いませんが、同じブロックではなるべく状態が同じになるようにします。そのような場合、ブロックによるばらつきをモデルで考慮すれば、興味がある因子の効果をより良く検出できます。
Goos(2002)は、パン生地を捏ねる工程に関する実験を取り上げています。実験の目的は、送り速度、水分量、スクリューの回転速度という3因子が生地にどのように影響しているかを調べることです。1日に実施できる実験は4回だけで、実験には数日を要します。どの日に実施される実験も、日ごとのランダムな環境による影響を受けます。日々の変動によって3因子の影響があいまいになってしまうのを避けるため、実験を4つずつのブロックに分けます。
ブロック因子「日」は、毎日の実験で構成されます。このブロック因子の水準は、「環境条件の異なる日々」という母集団から無作為抽出した標本と考えられます。そのため、ブロック因子「日」は、変量効果となります。
乱塊法の実験計画を作成するには、「カスタム実験」プラットフォームで応答と因子を入力し、モデルを定義します。そして、「計画の生成」アウトラインで[ブロックごとに実験を実施]オプションを選択し、1ブロックの実験回数を入力します。計画の構造に関するオプションを参照してください。
メモ: 固定効果のブロック因子を定義する場合は、「因子」アウトラインでブロック因子を入力してください。一方、変量効果のブロック因子(ランダムブロック)を定義する場合は、「因子」アウトラインにブロック因子を入力しないでください。代わりに、「計画の生成」アウトラインで[ブロックごとに実験を実施]オプションを選択してください。
分割法は、特定の実験グループに対して因子水準を一定にしたい場合に使用されます。工業分野では、通常、実験ごとに設定を変更することが困難な因子や、設定の変更にコストがかかる因子に関して、因子水準を固定して実験を実施することがあります。特定の実験グループに対して水準を固定する因子を、JMPでは、「変更が困難な因子」と呼んでいます。
「変更が困難な因子」がある状況では、因子の各水準を各実験ユニットに無作為に割り付けることは合理的ではありません。代わりに、因子の各水準を実験ユニットのグループに無作為に割り付けます。このような割り付けにより、実験計画やその統計分析におけるランダム化に関して、特別な制約が課せられます。
Box et al.(2005)は、棒鋼の腐食耐性を調査するための実験を取り上げています。棒鋼は、まず溶鉱炉で硬化します。その後、腐食耐性を強める目的で、コーティングを施します。次の2つの因子について調べます。
• 「炉内温度」(摂氏)。水準は360、370、380
• 「コーティング」。水準は4つのコーティングの種類を表すC1、C2、C3、C4
「炉内温度」は、溶鉱炉の中の温度をリセットするのに時間がかかるため、変更が困難な因子です。そのため、各温度設定で4本の棒鋼を処理します。その後、4本の棒鋼に4つのコーティングが無作為に割り当てられます。
実験ユニットは棒鋼です。「炉内温度」は、その各水準が一次単位に対応している、変更が困難な因子です。そして、各一次単位内の実験ユニットにおいて、「コーティング」が無作為に割り付けられます。
図4.29 分割実験計画の「因子」および「計画」アウトライン
腐食耐性の実験の「因子」アウトラインでは、「炉内温度」の「変更」が[困難]、「コーティング」の「変更」が[容易]に設定されています。実験回数が15回のこの計画では、一次単位が5つあり、各一次単位内においては「温度」の設定が一定に保たれています。
一般的には、1つの工程段階において設定の変更が困難な因子が複数ある場合もあります。例えば、この例では、温度だけでなく溶鉱炉の場所も変更が困難です。「因子」アウトラインにおいて、そのような因子の「変更」列を[困難]に設定してください。
変更が[容易]な因子と[困難]な因子しかないカスタム計画の場合、[困難]な因子の実験は、「一次単位」という新しい因子を使ってグループ化されます。「一次単位」の値は、[困難]な因子に対し、同じ設定の実験ブロックを指定します。計画のデータテーブルに保存される「モデル」スクリプトでは、「一次単位」を変量効果として扱います。変更および計画の構造に関するオプションを参照してください。
分割実験の計画例や分析方法については、分割実験で紹介されています。
変更が困難な因子が2段階ある場合、2段分割法が使用されます。これは、工業分野において、ある工程から次の工程へと材料のバッチや実験ユニットが引き渡される場合に広く使われています。因子は、第1段階で材料のバッチに適用されます。そして、バッチが分割され、第2段階の因子が追加されます。変更が[非常に困難]な因子が、第1段階の因子とみなされます。また、変更が[困難]な因子が、第2段階の因子とみなされます。なお、第2段階の後、実験ユニットにさらに追加の処理を割り付けることもできます。変更が[容易]な因子が、これらの因子とみなされます。
2段分割実験は、バッチを変量効果のブロック(ランダムブロック)として扱います。バッチは2段階に分割されるので、第2段階の因子は第1段階の因子の入れ子になります(つまり、第2段階の因子は、第1段階の因子から枝分かれしている構造になっています)。
Schoen(1999)は、チーズの品質に関する2段分割実験の例を取り上げています。因子と水準は、「Design Experiment」フォルダ内の「Cheese Factors.jmp」サンプルデータの中に含まれています。この実験は、3つの工程段階で構成されます。
• 牛乳が農家から配達され、大型貯蔵タンクに保存されます。
• タンク内の牛乳は、凝乳処理を行うため、複数の小型タンクに供給されます。
• 各小型タンクの凝乳がチーズ工場に運ばれ、各種チーズ製品が製造されます。
この実験では、次の3つを調べます。
• 大型貯蔵タンクに保存されている牛乳に関連する2つの因子
• 凝乳処理用の小型タンクに関連する5つの因子
• 凝乳から製造されたチーズに関連する3つの因子
凝乳処理用の小型タンクに関連する因子の水準(二次単位)は、大型貯蔵タンクの牛乳に関連する因子の水準(一次単位)からの枝分かれになっています。
「因子」アウトラインでは、「変更」を[非常に困難]、[困難]、[容易]に設定できます。
• 貯蔵タンクに関連する2つの因子の変更は[非常に困難]
• 凝乳処理用の小型タンクに関連する5つの因子の変更は[困難]
• チーズに無作為に割り当てることのできる3つの因子の変更は[容易]
図4.30 2段分割計画の「因子」および「計画の生成」アウトライン
一次単位のデフォルトの数は5で、二次単位のデフォルトの数は10です。実験回数は22に設定されています。この計画において、二次単位が10しかない場合、二次誤差を推定できるだけの一次単位ありません。そこで二次単位の数を11に変更してください。[計画の作成]をクリックすると実験回数22の計画が作成されます。
図4.31 チーズのシナリオの2段分割計画
5つの一次単位が、貯蔵タンクの因子である「貯蔵1」と「貯蔵2」に対応しています。この貯蔵に関する因子の設定は、各一次単位内で一定です。なお、ある一次単位とそれに続く一次単位で設定が同じであっても、一次単位間で因子を一度リセットする必要があります。たとえば、「貯蔵1」の水準は実験10と実験11の間、実験14と実験15の間でリセットしなければならず、「貯蔵2」の水準は実験18と実験19の間でリセットしなければなりません。一次単位のばらつきを捉えるためには、設定が同じであっても、一次単位間で因子をリセットする必要があります。
11個の二次単位は、凝乳に対する因子に対応します。各二次単位内で、この凝乳に対する因子の設定は一定です。二次単位の水準は、一次単位の各水準内だけで重複しています。これは、二次単位が一次単位からの枝分かれになっていることを示しています。
チーズ工場での水準は、個々の実験ユニットにランダムに割り付けられます。
2段分割法を計画するには、「因子」アウトラインで、「変更」が[非常に困難]と[困難]な因子を指定します。このとき、計画には、「変更」が[容易]な因子も含めることができます。2段分割法では、次のような2つの因子が作成されています。
• 「一次単位」には、[非常に困難]な因子の水準が割り付けられます。
• 「二次単位」には、[困難]な因子の水準が割り付けられます。
• [困難]な因子が、[非常に困難]な因子からの枝分かれになるように、「二次単位」は設定されています。
• 二次単位内の各実験ユニットには、「変更」が[容易]な因子の水準が割り付けられます。
• 「一次単位」と「二次単位」は、計画のデータテーブルに保存される「モデル」スクリプトにおいて変量効果として扱われます。
「因子」アウトラインおよび計画の構造に関するオプションの「変更」に関する説明を参照してください。
2方分割法は、2つの層で構成されています。2方分割法は、工業分野において、ある工程から次の工程へと実験ユニットが引き渡される場合に広く使われています。2方分割法では、第1段階の工程の後、現在のバッチを新たなバッチに分け直します。そして、第2段階の処理を、その新しいバッチに無作為に適用します。つまり、2方分割法では、第2段階で、新しいバッチに対し、第1段階の工程とは独立して処理を割り付けます。なお、第2段階の後、実験ユニットにさらに追加の処理を割り付けることもできます。
2方分割法では、2段分割法と異なり、第2段階の因子は第1段階の因子からの枝分かれにはなっていません。第1段階の後、バッチは改めて分割されて新しいバッチを形成します。そのため、第1段階と第2段階の因子は独立して割り付けられます。
2方分割法においては因子を変更する難しさはどちらの段階でも同程度かもしれませんが、因子を区別するために、JMPでは第1段階の因子を「非常に困難」、第2段階の因子を「困難」と呼んでいます。また、第2段階の後で実験ユニットに追加する因子を、(変更が)「容易」と呼んでいます。
Vivacqua and Bisgaard(2004)は、乾電池の開回路電圧の改善のための実験を取り上げています。次の2つの工程について調べます。
• 第1段階: 連続組み立て工程
• 第2段階: 5日間の硫化工程
技術者たちは、次の6つの2水準の因子を調査したいと考えています。
• 組み立て工程に関連する4つの因子、「X1」、「X2」、「X3」、「X4」
• 硫化工程に関連する2つの因子、「X5」、「X6」
2水準のすべての因子を含む完全実施要因計画の場合、26 = 64回の実験が必要で、64*5 = 320日もかかってしまいます。さらに、個々の乾電池の組み立ての条件を変更することは現実的ではありません。ただし、2000個のような大きなバッチであれば、組み立て条件の変更は可能です。
第1段階と第2段階の因子はどちらも変更が困難です。そのため、2つの分割実験が存在すると考えることができます。たとえば、第1段階の処理を終えた2000個のバッチを、500個ずつのサブバッチに分割するとします。そして、それら4組のサブバッチを、第2段階の因子の4つの設定のいずれかに無作為に割り付けるとします。このとき、第2段階の硫化条件に関する設定は、第1段階の工程とは独立に割り付けられます。つまり、第1段階と第2段階の因子は交差しています。
第1段階と第2段階の因子を区別するために、第1段階の因子の「変更」を[非常に困難]とし、第2段階の因子の「変更」を[困難]とします(図4.32)。また、「計画の生成」の下にある[変更が「困難」な因子を、「非常に困難」な因子と独立して設定]オプションに注目してください。このオプションを選択しなかった場合、2段階の枝分かれ構造で構成される2段分割計画として扱われます。2方分割実験計画を作成する場合は、このオプションを選択してください。
図4.32 2方分割計画の「因子」および「計画の生成」アウトライン
一次単位のデフォルトの数は7で、二次単位のデフォルトの数は14です。実験の回数を28回として、[計画の作成]をクリックしましょう。
図4.33 乾電池の2方分割実験
7つの一次単位は、第1段階の因子「X1」、「X2」、「X3」、「X4」に対応します。これらの因子の設定は、各一次単位内で一定です。14個の二次単位は、第2段階の因子「X5」と「X6」に対応します。たとえば、(異なる一次単位からの)実験1と実験15のサブバッチは、同じ二次単位で処理されます(「X5」が1に、「X6」が-1)。
2方分割法を計画するには、「変更」が[困難]と[非常に困難]に設定された因子が必要です。2段分割法の操作手順と同じように、2方分割法でも、「一次単位」と「二次単位」という因子が作成されます。しかし、2 方分割法では、「二次単位」は独立に設定されます(つまり、[困難]な因子の水準は、[非常に困難]な因子の水準からの枝分かれになっているわけではありません)。なお、「一次単位」と「二次単位」は、計画のデータテーブルに保存される「モデル」スクリプトでは変量効果として扱われます。
2方分割法では、「二次単位」が「一次単位」からの枝分かれになっていない点に注意してください。2方分割法を作成するには、「計画の生成」アウトラインで、[変更が「困難」な因子を、「非常に困難」な因子と独立して設定]チェックボックスをオンにします(図4.32)。変更および計画の構造に関するオプションを参照してください。
分割実験の計画例や分析方法については、2方分割実験で紹介されています。